放射性物質過敏症でもよい

 化学物質過敏症(本態性環境不耐症)の概念は,よく言えば「万能」,率直に言えば実体が無いと言えます。それについては,kumicitさんの記事にも繰り返し書かれています。

メモ「CS Millerが挙げる、MCSの主要な症状」
http://transact.seesaa.net/article/371494396.html

反証が事実上不可能な方向に進んでいるように見える
http://transact.seesaa.net/article/371342938.html

何かで何かが起きる
http://transact.seesaa.net/article/369640920.html

私自身の記事で関連するのは次。
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20130711/1373549366

 「あらゆる症状があらゆる物質によって引き起こされる,しかも引き起こされない場合もある,さらに,何も物質がなくても引き起こされる場合もある」
 これって何か意味のある有意義なことを述べているんでしょうか?「化学物質過敏症」であると診断することは,「病気」であると診断するのと余り変わらないように思えます。

 「病気」という診断をしても,治療法は分かりません。もう少し詳細に「中毒」と診断したとしてもまだ不足です。何が中毒を引き起こしたかを突き止めなければ,治療法は決められません。このように何にでも対応できる万能の概念は,正しいかもしれないけど,患者に何ら有意義な情報を与えて呉れません。

 「化学物質過敏症」も同様に種々雑多な病気の寄せ集めで、意義が無いように思えるのですが、意義がある可能性が一つ思いつきます。実は、「化学物質過敏症」と診断された大部分が一つの疾患である可能性があるからです。というのは,原因も分からず,症状も様々なのに,治療法が提案さて実際に治療が行われています。そして効果がある場合もあるからです。例えば「気功」で治ると主張する人もいます。これは何を示唆しているのでしょうか。

 様々な症状が一つの治療法で治るということは,様々な症状を引き起こす共通の根本的な原因があり,それにその治療法が効果を発揮していると推測出来ます。「気功」の場合は「潜在意識で気にしない」ことだそうです。要するに条件反射だということなのですが、「心因性」という表現は使わず、化学物質の関与についても触れないのがミソです。患者さんには受け入れやすいのではないでしょうか。心療内科心因性と言われる場合とでは,患者さんの気分は随分違うと思います。

 勿論,「化学物質過敏症」と言われるものが,総て「心因性」ということはないでしょう。アレルギーや中毒など,様々な疾患が混じっていると思います。その場合は,その疾患に合った治療法を行う必要があります。化学物質過敏症では,別の病気の可能性を排除していく必要性があると言われます。

 持って回った言い方をしましたが、「心因性」というのは、他の可能性が排除されて、それしか残っていないという消極的な診断になるのではないでしょうか。もしかして、心因性特有の症状もあって,積極的な診断も可能かもしれませんが,その場合でも他の原因の消去は必須と思います。従って、「心因性」という診断は常にひっくり返る可能性が残ります。消去できない新しい原因が見つかるかもしれないからです。

 ただ,根拠を以て新説を唱えることは有意義ですが,「何かで何かが起こる」では「説」の体をなしていません。仮に私が「放射性物質過敏症」という疾患概念を提唱したとします。「化学物質過敏症」とされてきた病気は心因性でもなく,化学物質が原因でもなく,超微量の多種多様な放射性物質に反応するという説です。ただ、「超微量の放射性物質」が原因であることは負荷試験二重盲検法)では捉えることができません。「化学物質過敏症」と「放射性物質過敏症」は証拠や根拠の点で同じです。

 「化学物質過敏症」は「化学物質」の代わりに「放射性物質」でも他のどのようなものとも入れ替えることができます。化学物質で無ければならない理由や根拠は無いからです。それほど,融通無碍な概念です。必要な条件は,患者さんと医師が信じていることだけにみえます。