化学物質過敏症

SIVADさんのブログ「赤の女王とお茶を」のエントリー
「NATROM氏『化学物質過敏症は臨床環境医のつくった「医原病」だと思う』等について」
http://d.hatena.ne.jp/sivad/20130704/p1
にコメントしましたが,削除されました。

「長文コメントは迷惑だ。ご自分のブログでどうぞ」というごもっともな理由で,大変失礼しました。
ということで,今更ながら,自分のブログを開設することにしました。

まず,SIVADさんのところへのコメントを再掲します。(投稿時の誤字は訂正しました。「方向」→「報告」)

はじめまして。

>『化学物質過敏症』は前者『病因基準』にあたるといえます。しかし、その原因である『化学物質』やその機序についてはまだはっきりわかっていません。

「病因基準」でありながら,原因である「化学物質」については分かっていないというのは矛盾ではありませんか。「化学物質過敏症」は「本態性環境不耐症」とも呼ばれますが,こちらの方が適切な名称だと思います。「本態性」とは原因やその機序が不明ということですから。

>機序はわからなくても、少なくとも疫学的には、『なんらかの化学物質による微量の曝露が原因であろう』と疫学的にとらえられるケースは報告されています。

その報告が正しいかどうか私には判断できませんが、正しいと認められ、診断基準も確立され,それに従い診断されたなら「化学物質過敏症」と言って良いでしょう。問題は,現在多数いらっしゃる化学物質過敏症と診断された患者さんがそのような診断を受けていないと言うことではないですか。今、そのような報告があるということこそ、まだ医療の現場で使えるようなものではないことを意味していませんか。

>たとえば日本における化学物質過敏症の地域例として知られる杉並病では、区の調査結果から疫学的にはゴミ中継所からの排出物質が原因と考えるのが妥当とされ、公害等調整委員会もそれを認めました。

杉並病化学物質過敏症であるかどうか不明でしょう。区は硫化水素が原因と主張し原告はプラスチックと意見に違いがあります。どちらにしても,中継所からの汚染物質がそれなりの量が発生したため区の責任が問われたのでしょう。水俣病と同じ公害に相当すると思います。それに対して化学物質過敏症とは,普通の人には全く影響のない超微量の化学物質に反応するというものです。遠く離れた人の付けている化粧品の臭いで気分が悪くなるというようなもので,原因物質発生者の責任を問えるようなものではありません。

水俣病や金属アレルギーの例は原因物質がはっきりしていたか,少なくとも候補は分かっていて,機序が分からなかったというもので,化学物質過敏症とは違います。化学物質過敏症の症状からは、特定の化学物質が原因と判断できるものはありません。(今後、出てくるかもしれませんが、少なくとも根拠のなかった今までの診断は患者に不利益を与えている可能性が高いです。)

多くの原因不明の難病は,原因が1つとは限らないかもしれませんし,複数の疾患なのかもしれませんが,少なくとも外徴基準で1つの概念・病名が付けられます。これに対して,化学物質過敏症には,特徴的な症状は無く,ありとあらゆる症状があります。
例えば,日本の医師による判断基準では以下のとおりです。

1・・持続あるいは,反復する頭痛
2・・筋肉痛または,筋肉の不快感
3・・持続する倦怠感と疲労

そして以下のような副症状がある事
1・・咽頭
2・・微熱
3・・下痢、腹痛、便秘
4・・集中力、思考力の低下、健忘
5・・興奮、精神の不安定、不眠
6・・皮膚のかゆみ、感覚異常
7・・月経過多などの異常

なにか特定の化学物質を示唆するようなものは何もありません。さらに,混迷を深めるのは,特定の原因物質に晒された結果,多種の他の物質にも反応することです。最初の原因物質と誘発された物質は区別出来ません。それだけでなく,原因物質に晒されると症状が軽減することもあるし,原因物質を取り除くと症状が悪化することもあるといいます。

整理すると,
1.原因物質とされるもの以外でも反応することがあるし,原因物質に反応しないこともある。
2.原因物質以外のものにも反応する。
3.原因物質に晒されると症状が軽減することもあれば,取り除くと悪化することもある。
4.他の原因で説明出来る様々な症状があり,特徴的な症状がない。

常識的に,その物質は症状の原因ではないと判断するところでしょう。
そして,上記の診断基準で化学物質過敏症と疑われると,次のような検査をします。

1・・自律神経の異常の判定・・・副交換刺激型などの瞳孔異常をみる
2・・中枢神経を含めた視覚検査・・空間周波数特性検査異常をみる
3・・眼球の追従機能低下の検査・・眼球の運動中枢の障害をみる
4・・脳の画像検査(SPECT)・・脳の血流量の変化をみる

これもまた,どのような症状があるかを調べているだけで,化学物質に反応していることを確かめるものでは全くありません。さらに,一般の病院には設置されていない器材で自律神経の活動を調べる特殊な検査も行うそうですが,これと原因物質の関係も分かりません。

「熱が出たからといって根本的な原因が同一ではないように、末端の症状が同じ、または同じようにみえても、もともとの要因が同じであるとは いえ」ませんが,化学物質過敏症は熱という単一の症状ですらありません。それこそ,化学物質が要因であると決めつけることはできません。

水俣病についてお書きのことは,「糖尿病や脳血管疾患」に「化学物質」が相当すると考えた方が妥当な例えになると思います。症状はそれら(化学物質)のせいであるとして水俣病(他の原因)を否定できるかのような誤った言説があるのではないでしょうか。

少なくとも,化学物質過敏症はすべて「心因性」や「アレルギー」であるという主張はありません。それらである場合もあれば,原因不明の疾患もあるかもしれません。

>ところで、NATROM氏の「化学物質過敏症は臨床環境医のつくった医原病」というのは病因基準にもとづいた疾患概念の提唱ですね。

これを新しい疾患概念の提唱というのは「病」という言葉尻に着目した低レベルの言いがかりでしょう。「医原病」とは誤診や医療過誤の比喩です。新しい疾患概念の提唱ではありません。立証責任があるのは新しい疾患概念を提唱した臨床環境医であり,その立証は不十分であるというだけです