20年4月中旬 海上カヌーで敵機と遭遇

 カヌーに一人で乗り今日は外界の方へ廻ってみようと思い岸辺を東廻りに漕いで行く。(湾内では大分採っており獲物も少なくなった)矢張り外海は波も大きく岸も岩等で近づきにくい。崖も切り立っている。小銃で種々の熱帯魚や色のきれいな魚を撃ち、岩の上の鳥を撃つ。(鳥の中には小銃弾でバラバラになり肉が吹き飛んでおるのもあったが皆持ち帰る)貝、海鼠等も採取。これで小隊全員の夕食が出来たと思い、今来た海路を引き返そうとした。所が、午前中は汐が満ちていて岸辺を通れたが、今は汐が引いて珊瑚礁が先の沖の方まで見える。一粁以上遠回りしなければならない。陽に照らされ頭もいくらかボーッとしていたようで、飛行機のことは全然考えていなかった。岬の珊瑚礁を一粁も遠回りしてやっと内海に入り、砂地まであと700米程で着くと思った時である。湾の北本島の谷間の鞍部より爆音がしてきた。今となっては致し方もない。
 鱶の用心に褌を長くして紐を足指に結わえ、敵機がカヌーに近づき降下してくるのを見定め海中に潜る。一米以上海面下へ潜った。もうよかろうと海面に顔を出したところ又降下してくる。直ぐ潜る。稍すると一機目が南海峡の方へ廻って又北の谷間よりやってくる。又潜る、又潜るで二機のグラマンが3回頭上を過ぎたが、銃撃もなく爆弾も見舞われず済んだ。今思っても不思議でならないのは、2機がどうして攻撃もせず3回も頭上を通過したのか、その時の飛行士に会えたらお礼の言葉を述べたいと思っている。
 その時は海岸からもT木兵長、N尾兵長の二人が大声で「N田ガンバレ」「また来たぞ」と叫んでいた。岸へ着くと両兵長は「今度はヤラレルか」「今度は駄目だ」とハラハラのし通しであった、と。「ホントによかった」「よかった」と手を握りしめてくれた。その日の夕食は鳥、魚、貝調理も上手に食膳に出して呉れ、皆は「本当においしい」「オイシイ」と言って食べてくれた。