20年3月頃 海軍農園芋掘り

 漸く自分らの農園も窮してくる。現在どう見ても食べられる芋は20日位先だろうという。ではと相談するが良い案はない。では海軍農園の芋掘りに行くかと誰からともなくつぶやく。「よしでは今晩行こう」ということになった。折しも闇夜で小雨もようである。どこから持ってきたのか海軍の黒外被を皆持っている。小生も一枚借り、6名で農園に向かう。海軍歩哨の場所や農園も判っているので、奥の方ジャングルを廻り、歩哨と50米位離れて通る。いよいよ6名は芋を植えた畦間の低い所を腹ばいになって前進、芋を唐米袋に入れる。
 大きな芋ばかりだ。30米位腹ばいになり袋も一杯となる。引きずられないので小声で「どうか」と言うと隣も一杯だ。先の方も一杯になったと聞きでは今来た所を後退と合図し元来た方へ帰る。農園の端まで来て6名を確認。
 勿論芋も一杯であることを見て、ではと前島への道を急ぐ。100米も来ない内「誰か」と大きな声で誰何を受ける。すかざず小生の後ろにいたT木兵長が「勤務ご苦労さん」と言う。あとの4名も「ご苦労さん」と言って通過した。
 T木兵長の「ご苦労さん」は海軍の黒外被を皆着ているので海軍と思われたのだろう。頓智の良さに義経弁慶の関所破りを思い出す。
 その時の海軍の歩哨は着剣しており実弾も込めていたものと思われる。