前山警備について(碁は死に目にもあわない)

 毎日の日課は、朝夜明けとともに起床。一応分隊長が人員掌握、元気な者と病人に大別、食事当番を置き、農園手入れ、柵の補強。小生は火砲の手入れ二日に一回。以上作業時間1時間半。
 其の後海岸井戸端へ洗面に行き、朝食となる。腹を空にして働きその後食事をとることは非常に食欲が出て美味しく頂けた。本島へ用事のある者はその後準備を整え、敵機の様子を見てカヌーで本島へ向かう。
 のんびりした一日で多分日曜日のことであったと思う。N尾兵長に「碁の昨日の続きをやろう」と言う。N尾兵長も「よしやろう」と言って碁盤を出し、ボール紙に蝋を塗り赤チンと黄チンで色別した碁石ならぬ碁紙を持ち出し名人戦を始めた。なかなか勝負がつかない。つい二人共真剣になり次次と考えながら名勝負続行。その時敵機来襲。前山の上を旋回。敵機の初めての行動に皆「今日はおかしいぞ」と思い乍ら、防空壕へ待避した。小生も爆音が近づいてきたなと思ったが、
N尾兵長は前鉢巻で人差し指と中指の間に持った碁紙を二箇所どちらに置こうかと迷っている。N尾兵長も皆が防空壕へ待避するのは知っていたが、「もう一石、もう一石」ということで長引いていた。丁度その時カン高い爆音が近づいたなと思った途端、ヒュルヒュルと同時にドカン。爆撃で宿舎は飛び上がり屋根の葉が落ちてきた。二人は一目散防空壕へ滑り込んだ。皆大笑いし、碁は親の死に目にも会えないと言うが、二人のことなら自分の死に目にもあわないという。小隊長より注意を受けた。