19年8月 大隊給与係幕舎を襲う

 分隊のN兵長が大隊の給与係として元中隊にいた。「初年兵が大隊の給与係として,自分等が大隊へ行っても威張り腐っている」という。すると皆「そうだ」「あいつ生意気だよ,なんとか泡吹かせてやれ」「そう言えばヤツの幕舎には乾パンが80箱以上あるよ」「では,それを戴きましょう」と話は一決した。明けの日現場視察としゃれ込んだ。目的のその幕舎に行って見ると。兵舎はその付近になくどうしてこんな淋しい所に糧秣を置いているのか解せない。留守番は一人だけだ。「ご苦労さん,こんな所に食糧を置いて大変だなあ」と言うと「それで夜間空襲で吹き飛んだトタン屋根を被せときますよ」と言って説明してくれた。トタンというとパリパリと音がする。まずいと思ったが既に皆はその時一箱ずつ貰ったつもりになっていた。
 翌朝午前一時頃5名はカヌーを漕ぎ出して湾を横切り倉庫の手前に舟をつけた。足下に注意しながらいよいよ乾パンを担ごうとしたところ,パリパリと音がしてトタン屋根が落ちてきた。亦地面にも敷いているのでパリパリと音が大きい。5名は手早く担ぎ出し一目散に砂浜に走り出した。給与係の「誰か,誰か」の声を後にして。