19年5月 S井兵長(佐賀市呉服町出身)の死。

 吾々前島小隊より物々交換で喜ばれるものは生魚,ナマコ,塩魚,塩辛等である。吾々はよく中隊,大隊へ行き交換したものであった。大隊本部病院へ立ち寄った所,佐賀市のS井兵長が椰子葉で作った涼しそうな病舎に寝込んでいる。「どうした」と聞くと「マラリアで熱が出て下がらない」という。元気そうな顔をしているので「然し元気だなあ」と言うと「今日は本当に気分がよか」と言って呉れたので「船の都合もあるので今日は帰るが元気にしときな」と言った。S井兵長が何か言いたそうにしているので「何か用事が有ったら言いなさいよ」という小生の言葉が切れるか切れないうちに「前島の塩辛,少しでもよい」という。「よし,五日以内に必ず魚と塩辛,持ってくるから元気で居れよ」と言って別れた。
 それから四日目,魚も獲れたので塩辛と一緒に持参し立ち寄ったら,S井兵長の毛布と道具がない。入院者に聞くと「今朝,亡くなられ,遺体は向こうの宿舎に安置してありますよ」という。行って見るともう仏様だ。塩辛と生魚を口に入れ「早く来ればよかったな」と言いながら手を合わせた。(合掌)