昭和17年12月下旬 羊羹紛失事件

 12月下旬のこと、歩兵大隊上陸の為、分隊より使役3名当て出すことになった。何か良い情報でもあればと思い、進んで使役を申し出る。夜一時前大発が来たので集合点呼を受け、乗艇準備して砂浜に待つ。午前一時過ぎ接近してくる駆逐艦らしきものが見える。我々は大発に飛び乗り駆逐艦に横付けするや飛び移っていった。丁度目前に甘味品と書いた梱包がある。すぐ担いで大発に飛び移る。歩兵も荷物を担ぎ乗り移ってくる。「早く乗り移らないと取り残されるぞ」と言ってやる。
 艦の引き揚げも早い。舷側を離れるや鑑は西方へ向かって全速力である。大発が海岸の砂浜に乗り上げたので一番に飛び降り「荷物は椰子林の中へ」と叫びながら、椰子林へ荷物を持ち込んだ。帰路その侭、分隊へ持ち込み、隊員26名に羊羹を平等に分配した。
 ところが翌日、昼寝して居る処へ銃剣の兵2人を連れた3名の下士官が来た。礼儀正しく「昨夜上陸した歩兵です。上陸では世話になりました。実は大隊長の梱包が一個判りませんので探しに参りました」と。聞くと「甘味品で中身は羊羹です」と言う。「成程」と言いながら「何かあれば報せます」と言って帰って貰った。分隊のものがまだ包み紙を破り捨てていなかったので助かった。