昭和17年10月15日

 ボーゲンビル島エレベンタ基地に辿りついた佐渡丸は、今まで甲板の一部しか見られず被害もよくわからなかったが、今朝見ると船長室船橋が吹き飛び血があちらこちらに付着している。前見張りおの伝令で、船尾操舵室で運航してきたとのこと。サンタイザベラ島に突っ込むかも知れないといった船員の昨日の言葉を思い出す。出迎えの大発に火砲、弾薬、機械を積換え、海辺の椰子林に駐留。命を待つ。
 一週間後、第5中隊はサンタイザベラ島レガタ海軍水上基地へ進出の命を受く。大発到着前砲、弾薬、食糧、機械等岸辺まで搬出。夕刻大発に、そして駆逐艦へ積換え。サンタイザベラ島レガタ基地へ向け、暗闇のソロモン街道を東へ30節で突っ走る。午前0時過ぎ、速度が落ちレガタ基地へ着く。手際よく大発が駆逐艦に横付けする。暗闇で基地がどの方向か判らない。砲機械弾薬食糧等、大発へ移す。駆逐艦は長居無用とばかり、西方へ向きを変え発進した。
 大発より火砲其他の荷物を揚陸、砂地を椰子林の中迄約100米程運搬。夜が明けてみると、海水浴場を思わせるきれいな砂浜である。水上機(布張り)が3機残骸を晒している。早く荷物を整理し陣地宿舎を作らなければならない。
 一人で鉄帽2ケを被る。椰子林の奥50米程の地に兵舎を作るべく装具を運び、場所の選定で何や彼やと言っている時、銃声3発。空襲警報である。はっと気づいた時既に超低空のグラマンが椰子林スレスレにキーンと金属音をうならせ、汚れた胴体を見せつけるようにしながらの機銃掃射である。3機だ。砂浜に着いた昨夜の上陸点の足跡等を見て掃射してきたものと思われる。鉄帽だけは被ろうと装具の処迄駆けて行ったが無い。あきらめて椰子の大きな根っこを廻り遮蔽する。敵機は3回廻って掃射して来たが当方被害なし。
 矢張り海岸の砂浜等良く注意しなければいけないと語り合った。敵機が去って皆一安心していると、S上等兵が鉄帽を被り他に一ヶを背中に付けている。「背中のものは俺のものだ」と言うと一同皆笑いあった。海軍より「この場所は基地の側で敵機の通路になっており、よく銃撃を受けたところです。もっと奥のほうがよいでしょう」と注意され、別の場所を捜すことにした。