昭和16年12月24日

 「英軍の強靱な抵抗も遂に潰える時が来た。敵はもうこれまでかと降伏したのだ。九竜半島,香港島を併せ大復廓陣地を築いて居り,かつての日露戦争時の旅順要塞にも比すべき陣地であった。S本連隊長指揮大砲兵団火力を以て空から容赦なき爆砲撃を振る舞う。歩兵の必死な敢闘も,陥落まで一週間を要した。当方戦死683名,戦傷1413名」と戦史は伝えている。
 山砲手入れで真黒く油に汚れた体を,一ヶ月振りに谷川へ洗いに行く。服も汗と油で黒光りしている。その後所謂「徴発」の経験がないので隊長の許可を受け,一時間の予定でブラリと出掛けた。綺麗な洋館建に入ったところ,階下は既に兵隊に荒らされている。最上の6階迄階段を昇り,閉まっていたドアを蹴破って中に入る。奥に人の気配を認めたので用心し乍らその方を見ると,外人の女が一人うずくまっていた。小生手を横に振り「NO NO」と言って安心させ,破ったドアを閉めて外に出る。次に5階の荒らされた部屋で,机の上にあった径10cmの丸いメダル様のものに「ゼネラル ハセガワ」と記されたものを記念に持ち帰った。