昭和16年12月17日

 夜明け方,砲の側に寝ていたところ,突然大きなうなりを立てブルンブルンと敵砲弾が飛んできた。昨夜の山砲の砲撃地点を目標に撃ち込んできたものと思われる。ブルンブルンと頭上すれすれに大きなうなり音をたて,陣地後方谷間の駄馬位置へ飛んでいってはもの凄い爆発音を立てている。驚く馬を御者は勇敢にも山陰へ連れ去っている。山砲の前,稜線の先へも次々に飛来し破裂する。不発弾を見たが15糎榴弾砲と思われる。頭上を飛び越えた弾が駄馬位置でしきりに破裂している。ここで同年兵観測手T原君が戦死。観測器を安全位置に運搬中のことであった。(合掌)
 戦後,T原君の奥さんと長男の方が,せめて戦死の地でも見て英霊を慰めたいと黒山陣地跡を訪問されたが,草原の山には民家が建ち並び位置がつかめなかったとの由である。