昭和15年8月下旬 

 検閲は大分県日生台へ行く。汽車は筑後川岸を登っていく。線路傍きの旅館の窓から、慣れているのか日の丸を振り「兵隊さん万才!」と呼んでくれる。演習は厳しかった。然し原隊よりは楽々できた。一周間の日程を実施、帰隊した。帰隊すると留守中応召兵が入隊している。山砲を手入れし砲舎から吾々が兵舎入口迄来ると、彼らが待っている。「古兵殿お疲れでした。手入れその他申し付け下さい」と装具軍靴脚絆其他の品物を取ろうとする。至れり尽せりで古参兵に気の毒なことこの上ない。