悩ましい3回コイン投げ ― 4番目のケース 〇✕✕ と 〇〇✕ の場合

 4番目の〇✕✕と〇〇✕のケースも計算しました。〇✕✕が先に出る確率は、3番目と同じ1/3になりました。手順は、3番目の〇✕〇と〇〇✕のケースと同じなので、結果の遷移図、漸化式、計算表だけ示します。

漸化式

  • A(n+1)=A(n)
  • B(n+1)=C(n)
  • C(n+1)=A(n)+B(n)
  • D(n+1)=C(n)+D(n)

 結果を見て、新たな疑問が出てきました。「あなた」が勝つ確率は、3番目も4番目のケースでも同じ1/3ですが、計算表を見ると、1/3に収束する速さが4番目のケースの方が早くなっています。この違いは、途中でコイン投げを打ち切った場合4番目のケースのほうが「あなた」にとって有利であるかのように見えます。例えば、10回で打ち切ると、3番目のケースで「あなた」が勝つ確率は0.31ですが、4番目のケースでは0.33と少し大きくなります。

 しかし、「私」が勝って勝負がつく場合も3番目より4番目の方の収束が早いかもしれません。ということで、計算してみました。私の勝つ確率は1-1/3=2/3とわかっているので、計算しないつもりでしたが、途中経過を見るためです。

 結果は、「私」が勝つ場合も4番目の方の収束が早くなりました。考えて見れば、漸化式は、「あなた」が勝つ場合も「私」が勝つ場合も同じで、初期値(n=3)が違うだけなので、計算するまでもありませんでした。

 

悩ましい3回コイン投げ ― 再挑戦

【6/4追記】誤記がありました。後で修正しますが、たまたま、結論に変更はありませんでした。

  修正しました。遷移図と漸化式が間違っていました。また、飛躍があってわかりにくいので、青字部分を追記しました。

 挫折した「3回コイン投げ」の問題に再挑戦しました。問題を再掲します。

shinzor.hatenablog.com

 コインを連続して投げ続け、予想した3回連続のパターンが先に出た方の勝である。ただし、3回ごとに区切るのではなく、両者の予想のどちらも出なかったら、次の1回を投げ、その前2回と合わせた3回のパターンで判定する。そのようにして1回投げるごとに判定する賭けで「あなた」が先に予想し、「私」はそれを見て、自分の予想をするならば、「あなた」の予想が先に出る確率はどのようになるか。

 再挑戦と言っても、私には、綺麗に一般式を求める能力はないので、泥臭く可能なケースを数え上げて数値計算をしました。さらに、全部ではなく、前に間違えた「〇✕〇(あなたの予想)が〇〇✕(私の予想)より先に出る確率」だけ、とりあえず計算しました。なお、以下、コインの表を〇、裏を×と表記します。

 〇✕〇が出て勝負がつく以前には〇✕〇も〇〇✕も出ていないので、そのようなコインの出方を数え上げました。最短で勝負がつくのは、3回目に〇✕〇となる1ケースだけで、その確率は1/8です。4回目に勝負がつくのは、〇✕〇の前の1回目に〇と×の出る2通りが候補ですが、〇の場合は〇〇✕〇となり、3回目に〇〇✕が出ているのであり得ません。結局✕〇✕〇の1ケースだけで、この確率は1/16です。以下、同様に探していきますが、どんどん数が増え収拾がつかなくなりました。そこで、一工夫して漸化式を求めました。

 2回の並びのひとつ前に出ているのは、〇✕〇か〇〇✕にならないものに限られます。つまり、次のようになります。

  • 〇〇の前は〇と✕の2通り
  • 〇✕の前は✕の1通り
  • ✕〇の前は✕の1通り
  • ✕✕の前は〇と✕の2通り

 よって、4種類の二つ並びのひとつ前の二つ並びの可能性は、次のようになります。

  • 〇〇 → 〇〇と✕〇   
  • 〇✕ → ✕〇
  • ✕〇 → ✕✕
  • ✕✕ → 〇✕と✕✕

 このことから、n回目の〇✕〇で勝負がつくときの1回目と2回目の〇〇、〇✕、✕〇、✕✕の数をA(n)、B(n)、C(n)、D(n)とすると、A(n+1)、B(n+1)、C(n+1)、D(n+1)は、次の遷移図であらわせます。

 遷移図より、次の漸化式が得られます。

  • A(n+1)=A(n)
  • B(n+1)=D(n)
  • C(n+1)=A(n)+B(n)
  • D(n+1)=C(n)+D(n)

 以上より、〇✕〇が〇〇✕より先に出る確率は、 {A(n)+B(n)+C(n)+D(n)}×1/2^nをn=3から無限大まで合計したものになります。

 あとは、計算するだけです。初期値をA(3)=C(3)=D(3)=0、B(3)=1として計算した結果は次の通りです。表にはn=10まで示していますが、n=40で0.33333とほぼ1/3でした。

 多分、こんどは間違いないと思いますが、漸化式を一般項の式にすることはできませんでした。というか、あまり考えていません。趣味みたいなものなので、漸化式が分かっただけでも満足しちゃったからです。それにしても、1/3という簡単な値になるのが不思議ですね。

国家財政と家計の違いは何かな?(その10 貯蓄から投資へ)

 岸田首相は、金融資産の「貯蓄から投資への移行」の方針を表明しています。どこかで聞いたようで,新鮮な感じがしないなあと思ったら、金融庁が2003年から「貯蓄から投資へ」をスローガンにしていました。

route100.jp

 ところで、「貯蓄から投資へ」の「貯蓄」とは個人の金融資産のことらしく、投資先は企業ということになります。確かに、この戦略は、企業のお金が足りないのなら有効かもしれません。政府がお金を出す方が手っ取り早いような気もしますが。それはともかく、企業はどうもお金が足りないわけではなさそうです。内部留保が沢山あると言われていますからね。そのお金は取引銀行の口座に預けられていて、さらに、銀行はその預金を投資せずに、日銀当座預金に預け、以前の記事に書いたように莫大な準備超過となっています。

shinzor.hatenablog.com

 投資とはお金を使って何かしたい企業が有って成り立ちますが、そのような企業が少ないのが不景気の原因じゃないでしょうか。要するに需要不足なんですよ。需要がなければ投資の行き場もありません。投資じゃなくて投機に向かうかもしれません。

 2003年からスローガンを唱えていても、投資への移行は進んでいません。その原因を解消するような方策が「骨太の方針」にはあるんでしょうか?

 畑に散水しようと、スプリンクラーのタンクに水を補給しました。ところが、スプリンクラーのノズルが閉まっていたんですね。タンクいっぱいになった水は、オーバーフロー管を通って、水を供給した大元のタンクに戻っていました。日銀当座タンクです。

 ノズルは開けたのでしょうか?

悩ましい「3回コイン投げ」 ー 間違っていた

 前の記事の続きです。やはり、私が間違っていました。

 例えば、初めて〇〇✕が出る2回前までのパターン〇〇、〇✕、✕〇、✕✕のうち3つが可能だとしても、同じ頻度ではありませんでした。どのような頻度になるかは、簡単にはわかりません。試しに、Aが〇✕〇、Bが〇〇✕と予想した場合に、10回までどうなるのか調べたのが下の図です。(見づらくてすみません)

 4回目から10回目にAとBの予想が当たる比率は、1:2、1:3、2:5、3:8、7:12、13:18、6:24となりました。(黄色:オレンジ)それぞれの回で黄色の確率を出して、10回まで累計すると、0.331927でほぼ1/3です。

 規則性が殆ど見いだせない級数なのに、1/3という単純な値になりそうなのが面白いです。なぜなのか分からず、行き詰っていますが。

 

■ 悩ましい「3回コイン投げ」

 「屈辱の数学史」(マット・パーカー)を読みました。その中に、うっかり勘違いしやすい確率の問題が載っています。

 2人で次のような賭けをしたとき、どちらが勝つ確率が大きいかという問題です。

 コインを連続して投げ続け、予想した3回連続のパターンが先に出た方の勝である。ただし、3回ごとに区切るのではなく、両者の予想のどちらも出なかったら、次の1回を投げ、その前2回と合わせた3回のパターンで判定する。そのようにして1回投げるごとに判定する賭けで「あなた」が先に予想し、「私」はそれを見て、自分の予想をするならば、「あなた」の予想が先に出る確率はどのようになるか。

 3回ごとに区切っての判定でないのが少し気になりますが、3回連続の出目のパターンの確率はどれも1/8なので、後で予想したところで、じゃんけんの後出しではないので、「あなた」の勝つ確率は変わらないように思えます。著者も最初はそう思ったと書いています。しかし、実はじゃんけんの後出しと同じで、「あなた」の勝つ確率は次のようになると書いてあります。

あなたの予想  私の予想    あなたの勝つ確率

表表表     裏表表     12.5%

表表裏     裏表表     25%

表裏表     表表裏     33.3%

表裏裏     表表裏     33.3%

裏表表     裏裏表     33.3%

裏表裏     裏裏表     33.3%

裏裏表     表裏裏     25%

裏裏裏     表裏裏     12.5%

 

 具体的に確率を確認してみたところ、上記の二つ目まではすぐにわかりました。ところが、3番目で行き詰まってしまいました。順番にコインを投げて「あなた」の予想が先に出るパターンを調べる方針だったのですが、爆発的に調べるケースが増えてしまい収拾がつかなくなってしまいました。この過程でいろいろ面白いことに気づきましたが、それはまた別の機会にします。

 3番目の確認をあきらめかけましたが、ヒントは本に書いてありました。最初から順番に調べるのではなく、逆に調べれば簡単でした。予想したパターンが初めて出た時から前に遡って、可能なコインの表裏の出方を調べればよいのでした。解答は次の様になります。見やすいように表を〇、裏を✕で表します。

 

1 〇〇〇と✕〇〇の場合

 初めて〇〇〇が出る前はしかありえない。が出たのなら、1回前に    〇〇〇がでたことになり、初めてではないからだ。したがって〇〇〇が出る1回前に〇〇が出ていて、私の勝である。結局、〇〇〇で勝つのは、初っ端に出る場合しかありえず、その確率は1/8である。

 

2 〇〇✕と✕〇〇の場合

 初めて〇〇✕が出る2回前までの可能なパターンを考える。の4通りがあるが、可能なのは1通りだけである。

 

 〇〇✕ 可能

 〇〇✕ 1回前に〇〇が出ているのでありえない

 〇〇✕ 2回前にが出ているのでありえない

 〇〇✕ 1回前に〇〇が出ているのでありえない

 

 それに対して、初めて✕〇〇が出る2回前までの可能なパターンは3通りである。

 

 ✕〇〇 2回前に✕が出ているのでありえない

 ✕〇〇 可能

 〇✕〇〇 可能

 ✕〇〇 可能

 

 以上より、あなたが勝つ確率は1/4である。

 

3.〇✕〇と〇〇✕の場合

 初めて〇✕〇が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは1通りだけである。

 

 〇✕〇 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕〇 2回前に〇が出ているのでありえない。

 〇✕〇 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕〇 可能

 

 初めて〇〇✕が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは3通りである。

 

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 2回前に〇が出ているのでありえない。

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能。

 

 以上より、あなたが勝つ確率は1/4である。

 

4.〇✕✕と〇〇✕の場合

 初めて〇✕✕が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは2通りだけである。

 

 〇✕✕ 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕✕ 可能。

 〇✕✕ 1回前に〇✕が出ているのでありえない。

 〇✕✕ 可能

 

 初めて〇〇✕が出る2回前までの可能なパターンの内、可能なのは4通りすべてである。

 

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能。

 〇〇✕ 可能

 

 以上より、あなたが勝つ確率は1/3である。

 

  なお、3回以上前の出目は、あなたと私の最後の3回のパターンとは関連しないので考慮しなくてよいです。

 

 さて、お気づきでしょうか。私の解答と、本に書いてある3番目の解答は違います。著者はプロの数学教師ですので、私が間違っている可能性が大きいです。簡単だと書きましたが、実のところ、少し自信がありません。ところが、さらに悩ましいことに、この本の著者は、「第0章はじめに」に次のように書いているんですよ。

実は、本書を作る際にもいくつかミスをしたが、面白いのでそのうち3つはそのまま残してある。

 

【5/30 追記】

どうも、3番目のケースは、〇✕〇と〇〇✕の場合は、私が間違えているようです。力ずくで10回まで投げた場合の「あなた」の予想が先に出る確率は、0.33008となりました。この時点で既に1/4を超え、1/3に極めて近いです。

しかし、どこに間違いがあるのか分からないのだな。

 

 

国家財政と家計の違いは何かな?(その9 タンス預金となった日銀当座預金)

■ 日銀当座預金を覗いてみた

  準備預金制度の目的を日銀は、「準備率操作を通じて金融を緩和、または引き締めることを目的としていた」と説明しています。

www.boj.or.jp

   過去形なので、現在は準備率の操作はしていません。1991年以降、法定準備率は0.3~1%程度のままです。本来、銀行は預金を運用して増やすもので、日銀に預けて眠らせておきたくないはずなので、法定準備率を定め強制していたのだと思います。しかし、2000年代以降、法定準備率を上回る「超過準備」が常態化しており、逆にマイナス金利によって準備率を下げさせようとしている不思議な状態になっています。では、どのくらい超過しているのか、実態を覗いてみて驚きました。

 

業態別の日銀当座預金残高日本銀行

www.boj.or.jp

  法定の準備額(所要準備額)12兆円程度に対して、準備預金額は、なんと490兆円もありました。準備預金制度を適用されない金融機関も含めると550兆円になっています。それも、2000年頃は数兆円程度だったのが、この20年ほどで急激に増えています。

www.tokyotanshi.co.jp

 素人目にも異常な状態に見えます。財務省は、国債を発行し続けると民間資金が枯渇し、国債を買えなくなって、財政が破綻するなんて言ってますが、枯渇どころか、バブル崩壊以降、数兆円から500兆円に増えています。増えてはいますが、日銀当座預金にただ眠っているだけで、投資には使われていません。結局、お金を日銀が回収したのと同じ結果になっており、金不足のデフレになるのも当然です。

 通常、国債を発行するのは政府が支出するためですので、国債発行で吸い上げた民間資金はすぐに支出されて、民間に戻りますし、日銀が民間銀行の国債を買えば、お金を新規に発行したことになります。このようにして増えたお金が市場で回転して景気がよくなるのを期待するのが金融緩和です。ところが、実態は、お金は日銀当座預金に眠っているだけで不景気が数十年も続いています。

 

■ スタグフレーション対策は?

 そうこうしているうちに、原油価格上昇などによるコストプッシュインフレになり、一方給料は下落し、消費は低迷し、景気は良くならないというスタグフレーションになってきました。なのに、銀行は日銀当座預金にお金を500兆円預けていて、誰も使おうとしないのです。政府が行うべきスタグフレーション対策はあるはずですが、政府からのアナウンスはまだ聞こえてきません。1970年代のオイルショックでは、インフレ対策の公定歩合引き上げを行い不況に陥りました。それまでの好景気が一気に冷え込んだのですから、デフレが続いた今、似たようなことはしないと期待したいですが、どうでしょうか。

 財務省は、お金があれば使おうとするのが人間で、抑制する必要があるという認識が強いのではないか思います。確かに、人間には、そういう面もありますが、お金を貯めこむ傾向もあります。質素な生活をしていた一人暮らしの老人が亡くなり、家から莫大なタンス預金が見つかったりします。金は天下の回り物、使ってこそ意味があると昔から言われているんですけどね。

国家財政と家計の違いは何かな?(その8 財政法第4条)

■ 国家財政のお金に相当するのは、家計の借用書

 これまでは、お金を発行できる国家財政と発行できない家計は全然違う、と述べてきました。ただ、家計でも自分で発行できるものがあります。借用書です。国家財政を家計に例えるなら、お金は借用書に相当すると考えるといいかもしれません。その3に書いたようにお金は借用書が発祥ですからね。

 

■ 借用書は振り出してから回収する

 お金を発行できない家庭では、先に収入があり、それを支出します。この限りでは、支出は収入を上回ることはできません。ただ、お金を借りて支出することもあります。その場合、お金の代わりの借用書を先ず振り出し(とそれに伴う支出)、後で返済(借用書の回収)します。返済には利子を付けなければいけませんが、借金を運用して、利益を出せば、返済できます。つまり、借金する場合の支出はその時点の収入で賄うのではなく、将来の返済時の収入で賄います。収入が不足するから借金するわけですから、当たり前のことです。もちろん、返済できるだけの収入が将来得られる見込みは必要で、いくらでも借金できるわけではありません。見込みのない人には誰も金は貸しません。

 政府日銀の場合も同様で、ある年度の支出は、その年度の税収と公債で賄います。公債の返済は、将来の税収で行いますので、将来の経済状況の見込みが必要です。ある年度の支出をその年度の税収で全部賄う必要はありません。ところが、財政法には、それに反するようなことが書いてあります。

 

■ 財政法 第4条

  1. 国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる。
  2. 前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。
  3. 第1項に規定する公共事業費の範囲については、毎会計年度、国会の議決を経なければならない。

 

 公債又は借入金以外の歳入つまり税金をもって、歳出(支出)の財源とするとなっています。公共事業などの例外を認めないと、この法律を遵守するのは不可能です。税金としてお金を回収するためには、それ以上の支出を先にしておかなければなりませんからね。そこで、最初の1回は(いつのことかよくわかりませんが)支出だけして世の中にお金を供給し、次の年から財政法に従い、支出を税収以下に抑えるとどうなるでしょうか。結果は、世の中のお金の量は徐々に減っていきます。税として回収したお金以上の支出(お金の発行)をしないのですから当然です。こんな当然のことが財政法を作った役人には何故わからなかったのでしょうか。

 

■ 計算するまでもないが計算

 当然のように見えて勘違いもあるので、一応確認してみました。次の表は、それを示しています。表-1では政府と日銀をまとめて統合政府として表しています。最初の年度だけ、100の支出をしてお金を民間に供給します。財政法に反しますが、民間にお金がなければ税は徴収できませんので仕方ありません。次の年度からは、民間にあるお金の1割を徴税し、財政法に従い、税収の9割を支出します。その結果、3年後には、政府の負債100が「めでたく」97まで減りました。同時に民間のお金も100から97に減りました。結局何をしているかというと、最初に民間に供給した100のお金を回収しているだけです。いずれ、世の中からお金は無くなります。

 その次の表-2は、冒頭で述べた普通の借金の場合です。この場合の支出Eは、民間が20%の経済成長をして、将来の民間のお金が120になるという見込みに基づいています。将来には、120の1割の税収があるので、その9割を支出(お金の発行という「借金」)しています。3年後には、政府の負債と民間のお金が102に増えています。いずれ、120を超えるでしょう。

 

■ 現実はどうか

 公共事業の例外のせいか、あるいは第4条が守られていないのか、現実には、表-2のように、お金は増えています。それは、統計を調べなくても、戦後と現在の物価を比べればすぐにわかります。仮に、高度成長がなく、戦後と現在の生産性が同じと仮定しても、お金の量が変わらないなら、物価は同じになります。実際には生産性は大幅に向上しているので、物価は下がっていなければなりません。現実は、全く逆で、今の丸亀製麺のかけうどん並は340円ですが、昭和30年代は30~40円程度だったような記憶があります。

 

■ 統合政府を政府と日銀に分離

 表-2では、税収と歳出が一致しません。その差額0.8は政府発行通貨で補っているわけですが、統合政府は通貨を発行できるので問題ありません。その通貨発行を日銀に分離したのが、表3-1と表3-2です。政府の表3-1に公債欄が増えて、歳入と歳出が同じになりました。公債は財政ファイナンスが出来ないので、民間からの借金ですが、最終的に日銀が引き受けます。日銀は、日銀券を発行できるので、政府から返してもらう必要はありません。従って、表3-2の日銀は、支出だけで収入はありません。支出とは日銀券の発行です。

 統合政府の表-2から、日銀の表3-2を差し引いて、表3-1だけ示すことで、お金の発行が見えなくなります。この単純なトリックで、歳出はその年度の税収で賄わなければならないという錯覚を生み出すことができます。歳出が上回れば公債という借金をしなければならず、それが積もり積もって返済できなくなると勘違いさせることができます。

 公債発行は、信用創造による銀行預金に似ています。銀行預金は融資先への投資ですが、公債は、国民への投資みたいなものです。融資先が利益を上げれば利息付で返済してくれるように、国民が経済成長すれば増えた税金で返してくれます。その税金で公債は償還され消滅します。それを繰り返せば経済は成長を続けます。

 書くのも馬鹿馬鹿しいですが、借用書には財源は不要です。信用創造による銀行預金も公債も日銀券も借用書の一種です。必要なのは、将来の予測です。信用創造による銀行預金にも現金という財源は不要でしたが、融資先の与信調査は必要です。

 

■ 財政規律

 財政法 第4条のようなものがあるのは、お金を乱発し、過剰なインフレとなり破綻した歴史にも原因があるのかもしれません。ただ、破綻の原因は、同じ年度の歳入と歳出のアンバランスではなく、将来の経済成長の見誤りです。銀行も甘い融資を行っていると、不良債権を抱えることになります。財政規律とは、目の前の財政赤字を気にするような単純で近視眼的なことではなく、将来を正確に見通すことでしょう。

 財政法第4条にイチャモンを付けましたが、将来を見通せば借金OKと一応書いてあります。

 

2.前項但書の規定により公債を発行し又は借入金をなす場合においては、その償還の計画を国会に提出しなければならない。

 

 財務省は、将来を見通して償還計画を作る能力がないので公債発行したくないのかどうかは、知りません

 

■ 財政法は、インフレの戦後にできた

 戦時中は国債の大量発行で戦費を調達しました。それに加えて、戦災で日本の供給能力は大打撃を受け、物不足になりインフレになりました。財政法はそのような時代背景の昭和22年に出来ています。当時は、インフレを抑制する第4条もそれなりに意味があったのでしょう。とはいえ、お金を増やさなければ、物価は上がりませんが、収入も増えないので、生活が良くなるわけじゃありません。生活水準を回復向上させるには、供給能力を高めなければなりません。

 戦後のインフレも「緊縮財政」で抑え込みましたが、逆にデフレ不況に陥りました。そこから脱出できたのは、朝鮮戦争の軍需でした。消費増税は需要を冷え込ませる効果的な方法なのですけどね。