HPVワクチン接種の積極的勧奨

■ 積極的勧奨って何?

 HPVワクチンの積極的勧奨は、2013年6月14日に一時差し控えの状態になりました。もう6年が経過してしまいました。ところで、「積極的勧奨」ってどういう意味なんでしょうか。私には、どうもよくわかりませんが、厚生労働省は次のように説明しています。

 

子宮頸がん予防ワクチン接種の「積極的な接種勧奨の差し控え」についてのQ&A

 

問2 「積極的な接種勧奨の一時差し控え」とは、具体的にどのような措置なのでしょうか。定期接種の中止とは何が違うのでしょうか。

答2 A類疾病の定期接種については、予防接種法に基づき市町村が接種対象者やその保護者に対して、接種を受けるよう勧奨しなければならないものとしています。

 具体的には、市町村は接種対象者やその保護者に対して、広報紙や、ポスター、インターネットなどを利用して接種可能なワクチンや、接種対象年齢などについて広報を行うことを指しています。

 

一方、「積極的な接種勧奨」とは、市町村が対象者やその保護者に対して、広報紙や、ポスター、インターネットなどを利用して、接種を受けるよう勧奨することに加え、標準的な接種期間の前に、接種を促すハガキ等を各家庭に送ることや、さまざまな媒体を通じて積極的に接種を呼びかけるなどの取り組みを指しています。(※)

 

※子宮頸がん予防ワクチンの場合、政令で定める標準的接種年齢(中1相当)を迎える前に個別に通知することが一般的です。

 

今回の「積極的な接種勧奨の差し控え」は、このような積極的な接種勧奨を取り止めることですが、子宮頸がん予防ワクチンが定期接種の対象であることは変わりません。このため、接種を希望する方は定期接種として接種を受けることが可能です。 一方、定期接種の中止とは、子宮頸がん予防ワクチンを定期接種の対象外とすることで、すべての子宮頸がん予防ワクチン接種は予防接種法に基づかない任意接種として取り扱われることになります。

 

  つまり、こういうことです。「勧奨」とは、広報紙や、ポスター、インターネットなどを利用しした広報であり、「積極的勧奨」とは、接種を促すハガキ等を各家庭に送ることらしいのです。でもですよ、厚労省は「積極的勧奨」だけでなく「勧奨」もやめているように思えるんですよ。まあ、私が広報を目にしていないだけかもしれませんが、「広報」はするが「個別通知」はしないのは、どういう結果を期待しているんでしょうか。接種率は高すぎず低すぎずの中庸を目指しているのでしょうか。それにどんな意味があるんでしょうか。皆目わかりません。定期接種とは、接種すべきと予防接種法に定められているものです。だから、都道府県知事や市町村長は「勧奨」しなければならないと予防接種法にも定められているわけです。そのような定期接種でありながら、「勧奨」はするが「積極的勧奨」は差し控えるという中途半端な対応はなかなか理解しがたいものがあります。

 仮に反ワクチン派の言うように、HPVワクチンに問題があるのなら、定期接種から外すべきでしょう。中止するほどリスクは高くないので定期接種は続けるが「積極的勧奨」は差し控える、というのはイソップ寓話のコウモリみたいじゃないですか。

 というような疑問を感じつつ、少しでも疑問が解消しないかと予防接種法を見てみました。ところが、疑問は解消するどころか、厚労省はとんでもないウソをついているのではないかという疑問が膨らんでしまいました。いやもちろん、専門外の私が法令を十分に理解できていないだけかもしれませんが、一応その疑問を述べて見ます。

 

■「積極的勧奨」と「勧奨」などいう区別はない

 予防接種法には「勧奨」という言葉は第8条に出てきますが、「積極的勧奨」は見当たりません。そして「勧奨」か「積極的勧奨」かなどということに関わりなく、予防接種法施行令には、(対象者への周知)として、次のように書いてあるのです。

 

予防接種施行令 

(対象者等への周知)

第六条 市町村長は、法第五条第一項の規定による予防接種を行う場合には、前条の規定による公告を行うほか、当該予防接種の対象者又はその保護者に対して、あらかじめ、予防接種の種類、予防接種を受ける期日又は期間及び場所、予防接種を受けるに当たって注意すべき事項その他必要な事項を周知しなければならない。

  

 厚労省のQAでいう「広報」の公式なものが「広告」です。そして、厚労省のQAでいう「接種を促すハガキ等を各家庭に送る」ことが「当該予防接種の対象者又はその保護者に対して、・・・必要な事項を周知」としか私には解釈できません。つまり、対象者への個別の通知も「勧奨」です。定期接種であるならば、しなければならないものです。だからHPVワクチン以外の定期接種は全部通知されます。HPVだけが異例です。

 あえて言えば、予防接種施行令6条の「周知」も「広報」であり、個別の通知は不要とも解釈できないこともありません。しかし、そう解釈するとHPVワクチン以外の定期接種の通知もしてもしなくてもいい重要度の低いものになってしまいます。しかし、個別の通知は接種率に影響する重要なものであることは最後にまた述べます。

 

■ 責任逃れの疑い

 予防接種関連法には、「勧奨」と「積極的勧奨」という区別はなく、個別の通知も重要な「勧奨」であり、行わないのは不作為の違法だと私は思います。違法であることをごまかすための姑息な手段が「勧奨」と「積極的勧奨」の無理やりの区別だと私には思えます。個別の通知を行わなくても法に定める「勧奨」をしているように見せかけることができるからです。ではなぜそんなことをしなければならないのか。誰でも思いつくのは、厚労省が薬害訴訟を恐れていることです。

 少なくとも、現時点では、HPVワクチンは害よりも利益が大きく、接種を控えるのは被害を増やすという見解が国際的なものですし、日本国内でも、日本小児科学会、日本小児保険協会、日本産婦人科学会、日本小児科医会、日本保育保険協議会、日本感染学会、日本呼吸器学会、日本渡航医学界、日本耳鼻咽頭科学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本環境感染学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会、日本最近学会、日本臨床ウイルス学会、日本産婦人科医会、日本婦人科腫瘍学会その他専門家の一致した見解です。だから、厚労省の専門家会議でも「定期接種を中止するほどリスクが高いとは評価されない」と言っています。中止すれば、将来、責任を問われること必至です。

 一方で、反ワクチン派の薬害訴訟の恐れもあるというか既に行われています。害より利益が大きいというのは統計的な意味であって、個別の接種者には害が大きい人も出てくる可能性もあります。だからこそ副反応による対応も予防接種法に定められているわけです。リスクはゼロではありません。それは仕方ありませんが、世の中には避けられない被害の責任追及までする人々がいて、厚労省は彼らに苦しめられてきたので、腹がくくれないのかもしれません。薬害事件の歴史ゆえに、羹に懲りてなますを吹くようにしてしまったのですかね。 

 ところで、個別の通知は「勧奨」の重要なものと言いましたが、データをみれば歴然としています。80%もあった接種率が個別通知を止めたため、ほぼ0%になってしまいました。「勧奨」はしており「積極的勧奨」を止めただけといったところで、「勧奨」を止めたというのが実態です。接種率がほぼ0%で勧奨もクソもありません。でもそれは厚労省にとって薬害訴訟がなくなるという有難いことです。一方で子宮頸がん被害は増えますが、因果関係の証明は出来ないので裁判になりにくいし、定期接種と形だけの勧奨はしていたので恐れることはないというわけです。

 

【追記】厚労省は勧奨をしていると見せかけていると書きましたが、おそらく意識はしていないと思います。苦渋の選択で最も正しいことをしているつもりなのではないでしょうか。それがまた恐ろしいところです。