調合管理強度と構造体コンクリート強度 - 責任の所在

 前記事に引き続き、コンクリートの話である。調合強度とは別に、調合管理強度と構造体コンクリート強度という強度があり、これについては確認の試験を行う。2種類ある理由は、責任の所在を明確にするためである。

 建物の注文主にとっては、完成した建物のコンクリート強度が確保されていればよい。それを確認するのが、構造体コンクリート強度の試験である。本来はそれだけでよい。ただ、建設業は多重下請け体制であり、コンクリート工事も元請のゼネコンの下に、下請けの施工者がいて、更に材料を提供するレミコン工場がある。関係者が輻輳しているため、構造体コンクリート強度が不足した場合、誰の責任であるか明確にする必要がある。そのため、現場に納入された生コンの品質を確認するのが、調合管理強度の試験である。調合管理強度が確認できていれば、構造体コンクリート強度が不足ししても、生コン工場の責任ではなく、施工者の責任と分かる。

 しかしである、可能性は極めて少ないと思うが、構造体コンクリート強度は十分にあるにもかかわらず、調合管理強度が不足した場合は、どのような対処をすべきだろうか。結果的に完成した建物の性能は十分あるのだから、取り壊して再施工させるのは過剰反応だ。生コン工場のペナルティは当然だが、施工者や発注者にとっても工事の遅れなどの被害を被る。既製品の材料なら受けいれ時の品質に不備があれば突き返せるが、コンクリートの品質確認は受け入れ後4週間経たないと出来ない。それまでに行った工事も総てやり直しになる。かといって、生コン工場に何のお咎めなしというのも納得しがたい。金銭的な補償を行うのだろうか。その場合の罰金は施工者と発注者にどのような割合になるのだろうか。

 原則を言えば、発注者はこのような問題には関わる必要はない。引き渡しされる完成建物の性能があればよく、途中経過は問わないのだ。契約関係にあるのは、発注者と元請であり、元請と下請の契約に発注者は介入しないのは、一般的には普通の考え方だ。例えば、ファミレスのハンバーグで食中毒になった場合、お客はファミレスに損害賠償を求める。原因が食材を納入した肉屋にあったとしても、それは、ファミレスと肉屋で話を付けてもらえばよい。また、肉が汚染されていたとしてもお客が食中毒にならなければ、お客が損害賠償を求めることは無い。ファミレスと肉屋の間では何らかの賠償を求める契約にすることはありうるが、それにお客は関わらない。

 ところがである、建設業では、元請けと下請の関係に発注者が介入することが多い。建設業法では、元下関係の規定が多くある。そして公共の発注では、それについて発注者も確認する。これは、下請けいじめという建設業の悪弊があるのに加え、不良下請け業者も多いという事情があるからだろう。生コンについては、過去にミキサー車の加水など技術的問題も起こしているため、介入して確認しないと発注者も安心できない面がある。

 もちろん、契約関係にない下請けに直接、要求したりすることは出来ない。元請に対して下請けを監理せよという間接的要求になる。そして、元請が下請けの仕事を確認した結果を発注者は再確認する。おそらく、このような事情で、発注者の調合管理強度の確認試験があるのだろう。つまるところ信用の問題だ。信用がないと、手間や費用が掛かるのである。それは、経済の原則だ。