石綿除去工事における洗眼及びうがいのできる設備の設置場所

 今回の記事は、重箱の隅を楊枝でほじくって、揚げ足を取るような話である。石綿除去工事に関わる人以外にはわかりにくいし、面白くもないと思う。それでも、錯覚の問題としてみると、興味深いかもしれない。

 石綿障害予防規則(以下、「石綿則」という。)31条には、次の規定がある。

事業者は、石綿等を取り扱い、又は試験研究のため製造する作業に労働者を従事させるときは、洗眼、洗身又はうがいの設備、更衣設備及び洗濯のための設備を設けなければならない。

 「石綿等を取り扱い、又は試験研究のため製造する作業に労働者を従事させるときは」とあるように、建築物の解体や石綿除去工事に限定した規定ではない。一方、建築物の解体や石綿除去工事に関しては、次の第6条の規定もある。

第6条2 事業者が講ずる前項本文の措置は、次の各号に掲げるものとする。
一 前項各号に掲げる作業を行う作業場所(以下この項において「石綿等の除去等を行う作業場所」という。)を、それ以外の作業を行う作業場所から隔離すること。
二 石綿等の除去等を行う作業場所にろ過集じん方式の集じん・排気装置を設け、排気を行うこと。
三 石綿等の除去等を行う作業場所の出入口に前室、洗身室及び更衣室を設置すること。これらの室の設置に当たっては、石綿等の除去等を行う作業場所から労働者が退出するときに、前室、洗身室及び更衣室をこれらの順に通過するように互いに連接させること。

 石綿除去等を行う作業場所は隔離し、その出入口には前室、洗身室及び更衣室を設置しろという規定である。この3室をまとめてセキュリティーゾーンと呼ぶ。

 では、石綿除去工事では、31条の「洗眼、洗身又はうがいの設備」はどこに設置しなければならないのだろうか?石綿則には特に規定はないが、労働安全衛生法第28条第1項の規定に基づく技術上の指針なるものがあり、「石綿指針」と呼ばれている。そこに次のように書いてある。

2-2 吹き付けられた石綿等の除去等に係る措置
 2-2-1 隔離等の措置
  3)前室及び設備の設置」
   イ 洗眼及びうがいのできる洗面設備並びに洗濯のための
     設備を作業場内に設けること。

 「作業場内」に設けることになっているのだが、その定義は特に無い。ちなみに、石綿則6条には「石綿等の除去等を行う作業場所」を、それ以外の作業を行う作業場所から隔離すること。」という規定もあるので、「作業場内」とは特に限定はないと解釈できる。

 さらに、厚労省は、「石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル」という手引きのようなものも出しており、そこに「石綿指針」の解説があり、次のように書いてある。

石綿指針2-2-1(3)のイ中「洗眼及びうがいのできる洗面設備ならびに洗濯のための設備」は、セキュリティーゾーン内に設ける洗身設備とは別に設ける必要がある。《平成 21 年 2 月18 日 基発第 0218001 号》

 「セキュリティーゾーン内に設ける洗身設備」とは、一般的にはエアシャワーであるが、排水処理装置を備えたシャワーを設ければ、洗眼及びうがいも出来る。しかし、洗眼及びうがいのできる洗面設備を兼ねることは出来ないということであろう。つまり、セキュリティーゾーンの外に設けることになる。

 ほぼ同様の解説が、環境省大気汚染防止法関連の「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」にもある。次の通りである。

セキュリティゾーン内に設ける洗浄設備とは別に,洗眼,洗身又はうがいの設備,更衣設備及び洗濯設備をセキュリティゾーン以外の場所に設ける必要がある。(平成 21 年 2 月18 日付き基発 0218001)
これらの洗浄設備は施工区画の内部に設けることが望ましい。

 ここで「施工区画」と言っているのは、隔離空間、セキュリティーゾーン、その外部の資材置き場などを含む作業を行う場所全体の事である。そこは、区画されて、作業者以外が立ち入らないよう管理される。石綿指針の「作業場内」と同じと解釈できる。以上より、洗眼,洗身又はうがいの設備は、セキュリティーゾーン以外の施工区画内に設置するという結論になる。

 以上は、前置きで本題はこれからである。上述の二つのマニュアルで参照されている「平成 21 年 2 月18 日 基発第 0218001 号」には、マニュアルの解説のようなことは一切書かれていないのである。おそらく、次の記述を誤読したのだろう。

第3 細部事項
 1 石綿則関係
  (3)第6条関係 
   ク 第2項第4号の「前室」とは、隔離された作業場所の
     出入口に設けられる隔離された空間のことであること。
     なお、前室内に洗浄設備を設けた場合であっても、
     洗身室を併設させる必要があること。

  ここで、述べてあるのは、洗浄設備を前室に設けても、洗身室と兼ねてはいけないとしか読めない。つまり、セキュリティーゾーンは3室を独立して設けよということで、洗眼及びうがいのできる洗面設備はセキュリティーゾーンの外に設けよとはどう解釈しても読めない。
 また、洗眼又はうがいのできる設備は、石綿除去工事現場だけでなく製造施設なども対象とした石綿則31条の規定であり、6条にはない。「平成 21 年 2 月18 日 基発第 0218001 号」には、第31条関係の記述はないのである。

 6条の説明を31条の説明と間違え、かつ書いていない解釈をしている。なかなか珍しい錯覚だと思う。