築地再開発検討会議

 江東区長のクレームで、豊洲市場移転日決定が先送りになりました。言うまでもなく発端は、小池知事の6月の「築地は守る、豊洲は生かす」発言です。この発言は、いかにも7月の都議選向けのその場しのぎの思いつきと感じました。私だけでなく,築地残留派の市場関係者にも疑いの目で見られました。公設市場を近接して二つ作るというのは、法的にも、制度的にも、施設機能的にも、市場運営的にも、利用者利便的にも、都市機能的にも非現実的ですからね。とても熟慮のうえの発言とは思えませんでした。

 知事の発言は、「築地にも公設市場機能を戻す」という意味としか考えられませんでしたが、言葉面だけみれば,あいまいです。そのため,「食のテーマパーク機能を有する新たな市場」と言ったのであって、「公設市場」とは言っていないと言い逃れることも、受け入れられるどうかは別にしてあり得ます。最初から、そんな姑息な2枚舌を使うつもりはなく、単なる浅知恵だったとしても,結果的にそうなりつつあります。

 本気で公設市場を分割する気なら、6月の発言直後から具体的な検討を始めていなければならないはずですが、一向にその気配が見えてきません。10月12日に第1回目が開催された築地再開発検討会議で検討を始めたようにも見えますが、この会議は、6月の小池知事発言以前から計画されていたものです。東京都都市整備局の平成29年度事業概要の83頁に「築地再開発検討会議(仮称)」を設置とすでに記載してあります。
事業概要

 しかも、この会議の目的は、築地から公設市場が抜けた跡地利用を検討するものですので、東京都中央卸売市場は関わっていません。会議の事務局も都市整備局です。市場以外の再開発も含むので都市整備局が主務担当だとしても、公設市場を作るのなら中央卸売市場が全く関わらずには不可能です。中央卸売市場のHPには様々な会議情報が載っていますが、検討会議の情報は一切ありません。

 さらに、会議のメンバーは次の通りで、市場関係は一人もいません。市場機能を残すのならありえない人選です。

青 木 茂 株式会社 青木茂建築工房 代表取締役社長
宇 田 左 近 ビジネス・ブレークスルー大学 副学長
大 崎 久美子 公益社団法人 全国調理師養成施設協会 事務局長
岸 井 隆 幸 日本大学理工学部教授
小 池 達 子 弁護士
近 藤 誠 一 元文化庁長官
デービッド・アトキンソン 株式会社 小西美術工藝社 代表取締役社長
出 口 敦 東京大学教授
安 永 雄 玄 築地本願寺 代表役員
リシャール・コラス シャネル株式会社 代表取締役社長

 それでも、会議では築地の市場機能について議論されている可能性がないとも言えないので、第1回の議事録を読んでみました。予想どおりそのような議論はありませんでした。小池知事自らあいさつで「自由な発想で、築地の魅力を最大限に生かした再開発の意見」を求めていて、公設市場機能を持たせるという条件は付けていません。都の施設が抜けた跡地再開発の普通の会議でした。
議事録

 もちろん、市場について全く触れていないわけでは有りません。例えば大崎委員は仲卸という目利きのプロが果たした役割を評価しています。ただし、その記憶を「築地ブランド」として記憶しておかねばならないと、既に過去の話として述べています。他の委員も大同小異で、建築や文化という歴史遺産を残さねばならないと語っています。市場機能が戻り,仲卸も依然として存在していれば、建築は別にして仲卸の役割や文化は残るに決まっていますから,あえて委員が強調する必要はありません。

 逆にいえば,市場機能が無くなるからこそ,歴史の記憶をその場所に形として残しやすいとも言えます。市場が現役として機能していれば、近代化も合理化もしなければなりませんから、昔の形のままではいられません。歴史は資料館のようなところに記録保存するしかありません。築地市場はそういう近代化が行われずにノスタルジックな風景が残って観光資源になった稀な例だったのかもしれません。しかし、それも限界に達したので、再整備や移転の必要性が出てきたわけです。仮に、築地にも市場機能を残すとなると、豊洲市場と同等の近代化をしなければならず、観光客が喜ぶようなノスタルジックな雰囲気を大幅に残すのは難しいでしょう。一方、市場機能のないテーマパークならば、観光客に見える表の顔だけそれ風にすることが可能です。青木茂さんならうまくやるでしょう。

 しかしながら,築地に市場が戻ってくると期待している人も一部いるようです。そのような人も,小池知事は「おれ,おれ」と言ったのであり、「あんたの息子」と言ったのではないと、とぼけていると感じ始めています。今後のことはわかりませんが、今現在、東京都の検討状況を見る限り,そう考えざるをえません。それは,それで結構ですが,小池知事の迷惑な口先行政はこれからも続きます。