呼び強度の強度値 − 妙なネーミング

 コンクリートの「呼び強度」なるものがある。土木建築関係者なら知らない人はいない言葉であるが、その意味を「調合管理強度」と説明しているものを時々見かける。この説明は、間違いである。「呼び強度」は単なる製品の呼び名である。ボルトの「呼び」や鉄筋の「呼び名」と同じ符号である。ボルトは「M12」など、異形鉄筋は「D22」などと表記されるが、その径の寸法は「公称軸径」や「公称直径」と呼ばれ、単位のある量である。

 小姑みたいに、細かい難癖をつけていると思われるかもしれない。確かに、ボルトのM12も径の意味で使うこともあるし、厳密に使い分けずとも困らない。それでも、コンクリートの「呼び強度」に、私は違和感を感じる。というのも、強度という量には「呼び強度の強度値」という馬から落馬のような名称がつけられているからだ。JIS A 5308に出てくる正式な用語である。その、説明がまたなんとも形容しがたい操作的定義である。

呼び強度の強度値
呼び強度に小数点を付けて、小数点以下1桁目を0とするN/m㎡で表した値である。

 冗長な表現だが、呼び強度21のコンクリートの強度は、21.0N/m㎡という呼び強度の強度値と言っているのである。何故、このような表現をしなければならないのだろうか。おそらく、呼び強度は数字だけで表されているため、単なる符号ではなく、量を表している印象があるからだろう。ボルトや鉄筋の場合は「M」や「D」という符号が付いているので「呼び名」であることが明確である。「呼び名」を径の意味で使うのも、便宜的な運用であることは明らかなので、小うるさく言う必要も無い。ところが、コンクリートの「呼び強度」は数字だけである。

 例えば、コンクリートの呼び強度を鉄筋やボルトと同じように「C21」と表記して「呼び名」と称し、その強度は「公称強度」とでも称すればいいと思うが、なぜが違うのである。

 さらに、「呼び強度」というのも、奇妙なネーミングである。コンクリート製品の名称ではなく、まるで「強度」に付けた名称の感がある。鉄筋は「呼び径」ではなく「呼び名」であるし、ボルトも「呼び軸径」ではなく「ボルトの呼び」である。これもなぜか、コンクリートだけ違うのである。

 その理由は不明だが、生コンクリートは鉄筋やボルトのような工場生産品という感覚が乏しいためではないかと私は思う。「呼び名」とは工場生産の規格品を示すものだ。鉄筋の径という量は連続的に変化可能ではあるが、実際に生産される規格品は飛び飛びの値しかない。D19の次はD22であり、D20というものは存在しないため、離散的な符号を付すことが可能である。

 構造計算で径が20ミリの鉄筋が必要となっても、そのような鉄筋は製造されていないので、D22を注文する。コンクリートも事情は同じで、必要な強度が20N/m㎡でも、20という呼び強度のコンクリートも存在しないので、呼び強度21を注文することになる。「呼び強度」とは既成の規格品の事である。ところが、生コンは、注文を受けてから生産するので、既製の規格品という印象に乏しく、強度を指定した特注品のように感じてしまう。これが、「呼び強度」を規格品名称ではなく、強度という量だと錯覚してしまう理由だ。

 錯覚しても、特に実際上の支障はない。それでも、「呼び強度」や「呼び強度の強度値」というネーミングは気持ち悪いし、間違った説明も気になる。鉄筋の「呼び名」を直径と誤って説明したものは見かけない。一般の方はどう感じるだろうか。

 ちなみに、「呼び寸法」という言葉も「建築用語大辞典」に載っている。その意味は次のように説明してある。

 部品のサイズを表示するのに用いる寸法、例えば、90cm×180cmのボード類や畳、200cm×400cmのコンクリートブロックなどという場合、実体寸法や製作寸法とは別にその製品を使用する際の便宜のために表示されるもの、呼び寸法と製作寸法の関係は、製品の種類、その使用の仕方、習慣などにより必ずしも一定していない。「公称寸法」ともいう。

 この場合も「呼び」とは工場で生産されている規格品というような意味合いである。ただし、ボード類のJISには「呼び寸法」という用語は出てこない。説明にもあるように習慣的、便宜的な言い方である。昔の尺貫法の名残りでサブロクバンやシハチバンと言ったりもする。JISに「呼び」という表現があるのは、私が知っているものではコンクリート、鉄筋、ボルト類だけである。