ブラック官庁

 新国立競技場関連工事で、自殺者が出ました。直接的には建設会社の労務管理の失敗ですが、発注者側にも道義的責任があるとの指摘もありました。官民問わず、建設工事では施主の無茶な工期要求は日常茶飯事ですからね。官の業行政担当部署は、建設業の週休二日制普及などの労働環境改善を唱える一方で、発注部署は全く正反対の突貫工事を発注することもあるんですね。

 ところで、官の無理な発注の大きな原因に補正予算があります。年度途中で予算が成立し、その年度内に完成させなければなりませんが、普通なら2年ぐらい必要な工事が第4四半期の3か月工期などで発注されたりします。まあ、物理的に完成は不可能です。当然ながら、予算は繰越され、工期延期されるわけですが、これを事前に公式に発言することはできません。予算の繰り越しは、事故などの事前には予知できなかったやむを得ない事情でしかできませんので、繰越を行うのは暗黙の了解に過ぎないからです。

 と、思っていたら最近は、暗黙の了解でもないようです。
 
補正予算の早期執行に向けた取り組み 国 土 交 通省 - 関東地方整備局
 
 リンク先の資料に翌債申請とあるのは、「繰越明許費に係る翌年度にわたる債務の負担」というもので、例えば今年と翌年に渡る契約において、今年度の支払い予定だったものを翌年度に支払うようにする手続きです。当然、予算が成立した後に行う手続きですが、なんと、関東地方整備局の資料では予算成立前に翌債申請の事前審査を行えるようになっています。だったら、最初からそのような支出配分の予算要求にしておけばよいのですが、補正予算の場合、緊急にその年度に行う必要があるという建て前なので、最初から翌年度支出計画にしにくいようなのです。そのため、こういう泥縄式のアクロバティックな手続きがひねり出されているのでしょう。

 アクロバティックと言えば、ゼロ国債はもっと強烈です。ゼロ国債とは、複数年度契約の初年度の支出がゼロの契約ですが、予算成立前に入札契約手続きを進めてしまおうというものです。さすがに契約は予算成立後ですが。

 このような綱渡りを行うのは、時間がないからで、それは契約後の工事の進め方にも影響してきて、突貫工事になりやすいのですが、その費用は予算化されません。なぜなら、元々、適正工期で予算化されていて、その後やむを得ない事由によって、予算の繰り越しや翌債手続きを行うだけで、予算自体の増額はないからです。

 そんな無茶な工事は請けなければよいと単純に言えないのは、補正予算は緊急経済対策のような政治的に行われることが多く、もともと建設業にために行っているところがあるからなんですかね。つまり、役所も建設業界も分かったうえで、知恵を絞ってやっているのかもしれませんが、どこか無理がたたって歪が出ますね。