JV義務撤廃 都政改革

「都政改革」か「都政最悪」か…入札契約制度の改革案について

都政改革本部のJV結成義務の撤廃提案は,業界に激震をもたらしているそうだ。中小建設業者が大規模工事から締め出されると心配しているようである。JVに対する考え方は国と自治体では異なるが,東京都の考え方の前に国の考え方を見てみよう。

 国のJVには3種類ある。特定建設共同企業体経常建設共同企業体,地域維持建設共同企業体であるが,地域維持型は除雪,修繕(道路,河川),パトロール,災害応急対策等に必要な工事であり,建築工事は該当しないだろう。それぞれのJVはさらに,甲型乙型がある。特定JVは,技術的難易度が高く,技術力を特に結集する必要が有る場合に臨時に結成される。経常JVは,中小建設業振興を図るために,最上位の構成員の等級以上の工事を受注できるようにしたものである。その名のとおり経常的に結成されている。等級とは行うことができる工事金額のランクであり,企業の規模による。等級も大手との競争から中小を保護する中小建設業振興が主目的である。等級によって,大手は少額工事に参加できないが,中小はJV結成によって上のランクの工事に参加することができる非対称の関係になっている。

 なお,経常JVは将来的には合併し,中小から脱することを目指したもので,中小を未来永劫に渡って維持・保護する主旨ではない。現状是認ではなく,保護なしで自立できる改革を目指している。少なくとも国交省はそうである。また,大企業と中小がJVを組み,大企業の技術力を中小が吸収し,施工能力の増大を図るという教育意図もある。これも改革のためだ。

 東京都の考え方は詳しく知らないが,自治体は地域振興が使命であるので,地元中小建設業振興の意味合いが強いだろう。都財務局が寄稿した記事には,次のように述べられている。「大企業者と中小企業者間で共同企業体を結成させて工事を受注させることにより、中小企業者の受注機会の確保を図った、いわゆる工事分配型の共同企業体を原則としている。」

東京都の入札契約制度改革の取組み 「入札に参加しやすい環境の整備」

 国の特定JVに相当する技術的難易度の高い工事でも,自治体では地元の中小をJVに入れる義務を付けることが多い。これは,前述の教育意図と理解できる。オリンピックや豊洲の工事は,国の特定JVに相当し,経常JVでは参加は難しい難易度の高い工事だが,このような工事にも,地元の中小がJV構成員として参加できるように配慮している。これは義務であり,大手だけのJVや大手1社の参加を制限していたのである。今回の都政改革の提案は,この制限(義務)の撤廃あって,中小が締め出されたわけではない。にもかかわらず,中小建設業界やそこと関係の深い都議会議員には激震なのである。その理由はリンク先の記事にも書いてある通りだ。義務でなくなれば,大手は地元中小をJV構成員として参加させずに,下請けとして使うと考えられるからだ。

 なぜなら,大手にとっては中小とのJVは利益が減るだけで,下請けにした方が得だからだ。義務だから仕方なく対応しているだけだろう。一方,地元中小にとっては下請けは利益が少なく大打撃である。JV構成員でも下請けでも行っていることはあまり変わらず,利益だけがちがうのだ。この状況から,中小建設業の技術力増大というJVの目的は単なるお題目に形骸化していることが見えてくる。難易度の高い工事に参加して技術力を磨くのなら,下請けでも可能だからだ。建設業は重層下請け構造である。難易度の高い工事にも昔から中小建設業は参加しているのである。では,大手の元請けの存在意義は何であろうか。言わずと知れた手配と総合調整能力である。日本の元請けは,CM(construction management)に近いことも行っている。JVの構成員となれば,本来はこの仕事も分担しなければならない。だが,おそらく下請けの仕事しかしていないのではないかと私は推測する。手配能力や総合調整能力を学び,中小から中堅,そして大手へと飛躍していくというのはあまり見聞しないからだ。

 私には,この状況が築地市場の中小業者の状況と重なって見えてくる。役所が主導する中小企業振興は構造改革にあまりつながらない。単に,優遇による現状維持になっているように見えるのだ。むしろ役所の優遇が無くなり激震が走った時こそ,中小企業は伸びるのではないだろうか。もっとも一部の企業だけで,多くは屍となるかもしれない。そんな競争はまっぴらだという気持ちも分からないではない。ただ,それは現状維持を望んでいるだけだ。