加速度応答スペクトル

 非常に剛性の大きい基礎や地下階は地盤への根入れがなくても,水平震度は小さいことは加速度応答スペクトルを見ればなんとなく推測できる。1質点系の応答値だが,目安にはなる。

 加速度応答スペクトルは地震の特性を表すものなので,地震によって異なるが,固有周期が短くなると,概ね最大値の半分以下になる。最大値の部分がC0=0.2に対応しているので,剛性の大きな地下階や基礎は水平震度0.1としておけば十分なのだろう。この際,地盤の拘束効果は一切考慮されていないので,考慮すればさらに低減できるのである。

 大昔に見た構造計算書では,基礎に作用する水平地震力は根入れで処理されると考え,地上部分の地震力だけ杭に伝わるとしていた。この方法には根拠がないが,1984年以前には,そもそも,杭の水平力に対する検討が行われていなかったのである。さすがに被害があったようであるが,土の中のことで見えないのですぐには気づかず,掘削調査して初めて気づいたりしていた。

 ところで,高野さんから「技術基準解説書には「モーダルアナリシスに従って計算してもよい。この場合、Aiの値としてA1=1になるように基準化する必要があり」の縛りがあり、かつCo=0.2以上が規定されていることはどのように考えられますか?」という更問があった。コメント欄では,「基礎や地下にAi分布を適用することを想定していないから」とあっさり答えたが,もう少し補足してみる。

 A1=1,C0=0.2ではあるが,1階の層せん断力係数の下限値は0.2ではない。地域係数Zや振動特整係数Rtによって低減できるからだ。振動特性係数の根拠は加速度応答スペクトルであり,長周期では応答値が小さくなるからだ。同様のことが短周期側でも言えるのであるが,振動特整係数Rtの低減はない。なぜだろうか。

 真相は分からないが,コメント欄に書いたように,地下や基礎への適用を想定していないのだと思う。基礎や地下はそれ用に別の規定があり,事足りている。一般的なRC造建物の固有周期は階数×0.1秒と言われるので,平屋でも0.1秒となり,それ以下の建物は殆どない。特殊な場合は,個別に考えりゃいいのであって,法令でそこまで面倒見るほど暇じゃないよ,と多忙な住宅局は考えたのではなかろうか。それに,短周期の固い建物は強度抵抗型なので,別に低減しなくても十分耐えられる。それに対して長周期の高層建物をCo=0.2で設計するのは困難な場合もある。

【3/26 追記】
1984年以前は,杭の水平力に対する検討が行われていなかったと書いたが,私自身,それ以前から検討はしていた記憶がある。

 私が,建築構造設計に携わるようになる直前に宮城県沖地震があり,既成杭の被害が話題になり,当時はいわれるままに計算していたが,法規制はまだなかったようだ。下記に歴史がまとめられている。

「基礎の変遷―杭の設計・施工の歩み」・・・・・加瀬善弥
http://www.psats.or.jp/column/kase012column.html