犯人探し

“盛り土”問題に新事実 不要決めた都職員は1人に絞られた
https://news.nifty.com/article/domestic/government/12136-351172/#article
いつ、誰が、どう決めたのか――。答えがハッキリしてきた。豊洲市場の“消えた盛り土”問題で、新事実が判明。基本設計を受注した「日建設計」が2011年1月ごろ、盛り土不要の工法を都側に提案していた。盛り土不要の決定時期がさらに絞り込まれたことで、都庁の幹部職員1人の関与が浮上している。

 東京都という組織の決定なのに、どういうわけか日刊ゲンダイは個人特定に必死ですねえ。利権がらみの悪意の犯人はニュースバリューがあるからでしょうか。確かに、東京卸売市場移転には利害関係者が群がっていそうで、そういう黒幕がいても不思議ではありません。でも、盛土騒動に関しては黒幕が関与して何かいいことがあるんでしょうか。どういう利権に結びつくのかさっぱりわかりません。

 当初は、「消えた盛土工事費はどこに?」という浮いた金を誰かが着服したかのような報道ぶりでした。酷いのになると、発注された盛土を受注者が勝手に取り止めた手抜き工事を疑うようなものまでありました。実際は、建物下の盛土なしで最初から発注されています。その盛土の状況も技術会議で報告されています。盛土と地下空間では後者が高くつくのは明白ですから、着服どころか、持ち出しのサービス工事になってしまいます。

 逆に工事費を釣り上げて、ゼネコンに配慮したという方が、まだそれらしいので、徐々に、こちらに陰謀論もシフトしているようです。しかし、工事費を増やすなら、もっとうまいやり方があると思うのですが、あえて世間が注目している土壌汚染対策で藪をつつく意味が分かりません。地下部分を地上に上げて、全体的に1層増やせば、盛土を止めて安全を損なったと批判されることもなく、もっと工事費を高くできるのにですよ。

 今、分かっている情報から考えれば、この騒動は、広報・説明の失敗でしょう。まだ、建物の形も決まっていない段階での、土壌汚染対策の概念図をそのまま使い続けたことと、建設(建築)部門以外の幹部は、施設のことをあまり知らなかっただけでしょう。事務室や作業場という自分たちの仕事に関わる部分は関心をもってチェックするでしょうが、地下の配管ピットのようなバックヤードには関心がない施主は結構多いです。

 土壌汚染対策の説明概念図は建物に地下があるかどうか決まっていない時点のものですから、ああいう絵になっているだけだと思います。地下は作らないと説明する主旨の絵ではないでしょう。その後、作られた詳細な概念説明図には地下がはっきり描かれているのですから、隠ぺいの意図があったとしたら随分お間抜けです。

 一般的に、事故原因の究明でも、決定的な失敗が一つだけあったということは稀です。事故対策は多重的に行われていますので、一つぐらいの失敗で事故にいたることはそう多くはありません。多くの失敗が偶然にも重なった結果、不幸な事故になったという場合が大半です。決定的な失敗を犯した犯人を見つけ出して、処罰したくなりますが、それじゃダメです。まず、そんな犯人は存在しない可能性が大です。仮に存在しても、処罰だけでは再発防止にはなりません。たった一人の決定的失敗で事故に至るという構造の改善が必要です。

 それに、豊洲盛土騒動ではまだ実質的な事故は起こっていません。盛土がないことが危険かどうかはまだ決着がついていません。まずそれを明らかにするのが先決でしょう。小池知事も安全の確認が第一だと言っていたではありませんか。また、前述のとおり、騒動自体を事故と考えた場合も、決定的な原因となった犯人が存在する可能性は少ないです。存在を前提にすると、原因究明に支障を来たしますし、仮に存在して犯人を処分しても、再発防止にはなりません。

 犯人探しばかりしていると、リンク先の記事のように、地下空間は日建設計の発案であるという,全く間違った詮索をしています。

 間違いであるのは、提案の内容と、ことの経過をみれば明らかです。

2010年11月:基本設計の起工決定(特記仕様書で「モニタリング空間設計等を含む」と表示)
2010年11月〜2011年2月:日建設計より、盛土に先行して基礎工事実施を提案     
2011年2月:設計プロポーザルの採用通知
2011年3月:基本設計契約
2011年3月〜2011年6月:検討素材として,都から設計者に地下空間が記載された断面図を提示
2011年6月:基本設計完了

 モニタリング空間の設置は都から設計者に与えられた与条件です。プロポーザル時点ではその位置は明確ではありませんが,地下水汚染のモニタリングと汚染土壌の浄化作業という空間の機能からして地下しかありえないでしょう。日建設計の提案は、特にモニタリング空間に限っておらず、基礎などの地下構造物の施工順序に関するものです。日建設計は建築の専門家であって土壌汚染処理の専門家ではありませんから。

 日建設計の提案は,一旦,盛土してからそれを掘削して基礎工事を行うのは無駄なので、基礎部分は盛土せずに,基礎築造後に基礎周囲を埋め戻すという,当たり前過ぎて加点にもならないような提案です。盛土施工時に建物の設計が完了していれば、普通に行われていることです。