暫定診断基準

<電磁過敏症>日本人の3.0〜4.6%に症状
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160828-00000003-khks-soci

 北條祥子尚絅学院大名誉教授(環境医学)が代表を務める早稲田大応用脳科学研究所の研究グループが、電磁波にさらされると頭痛や皮膚症状などが起こる「電磁過敏症」について、日本人の3.0〜4.6%が症状を訴えているとの研究結果をまとめた。調査を今後も続け、診断基準や治療法の開発につなげたい考えだ。

 国際学術雑誌「バイオエレクトロマグネティックス」の最新号に論文が掲載された。英国では、2万人を対象にした調査で人口の4%に電磁過敏症の症状が見られるとの報告があり、日本人も同様の高率で症状を示す人がいる可能性が出てきた。

 実態調査は12〜15年、北條名誉教授らが開発した問診票を32都道府県の一般市民2000人と、電磁過敏症を自己申告している自助組織メンバー157人に送付して実施。症状の有無や電磁波を出す家電製品などとの関連を尋ね、それぞれ1306人、127人から有効回答を得た。

 研究グループは、「電磁波の発生源とその症状を二つ以上記述している」といった暫定基準を設定し、超えた人を「自己申告患者」と同等の症状を訴えていると判定。一般市民のうち60人が基準を超過した。

 60人が訴えた症状は、鬱(うつ)や集中力の欠如などの神経症状が最も多かった。吹き出物や腫れ、赤みといった皮膚症状、頭痛、筋肉・関節症状が続いた。

 症状と電磁波を出す機器などとの関連に関しては、自助組織の回答者127人のうち76人(複数回答)が家電製品を一番に挙げた。次いで携帯電話(74人)、パソコン(53人)、携帯電話基地局(39人)、テレビ(24人)、蛍光灯(23人)、送電線(16人)、電子レンジ(15人)、ラジオ・テレビ塔(7人)の順だった。

 自助組織メンバーはアレルギー疾患の既往率が65%と高く、その80%以上がシックハウス症候群化学物質過敏症を併発していた。

 電磁過敏症は発症の仕組みがよく分かっておらず、診断基準も定まっていない。北條名誉教授は「電化製品のあふれた現代では誰がいつ発症してもおかしくない。アレルギーのように患者が急増しないうちに何らかの予防策を提案できるよう、さらに調査を進める」と話す。

 この調査結果から何がわかり、何が言えるのでしょうか。「自己申告者以外の一般市民でも3.0〜4.6%が「暫定基準」に該当した」というだけで、予防策に発展するような要素は全くないと私は感じました。何故なら、「暫定基準」に該当することが何を意味するか分からないからです。「暫定基準」に該当する症状は電磁波が原因であると言えるなら、一般市民の3.0〜4.6%が電磁波が原因の症状を呈しているという、重要なことが分かります。でも、言えるのは「「暫定基準」に該当するものが3.0〜4.6%」であって「電磁波が原因の症状が3.0〜4.6%」ではありません。「暫定基準」と電磁波の関係は何一つ明らかにされていませんから。

 仮に私が、この「暫定基準」に「化学物質過敏症暫定診断基準」という名前をつければ、「暫定基準に該当するものが3.0〜4.6%」といえますが、「化学物質が原因の症状が3.0〜4.6%」とは言えません。一応、「暫定基準」には「電磁波の発生源とその症状を二つ以上記述している」という項目がありますが、現代日本で電磁波の発生源のない場所はシールドルームぐらいしかありませんので、原因を推測する上ではほとんど無意味です。この項目を「化学物質への暴露とその症状を二つ以上記述している」と変えても、同じように無意味です。化学物質に暴露していない人などクリーンルームで暮らしているのでもなければ、いないからです。

 なお、原因不明でも、症状に特徴があって、他の病気と区別できるのなら、診断基準を作ることもできます。その場合は原因を示唆するような名称は普通付けられません。予断を与えて治療の障害になりかねませんからね。ところが、「電磁波過敏症」の暫定基準には電磁波という原因らしき言葉が入っていて、しかも、症状には特徴すらありません。鬱(うつ)、集中力の欠如、吹き出物、腫れ、赤みといった皮膚症状、頭痛、筋肉・関節症状という症状はありふれていて、私も時々、そういう症状がでます。不定愁訴に苦しむ人は人口の1割程度いるそうですが、その症状は、電磁波過敏症の暫定基準にあるものとよく似ています。ただし、原因不明であり、治療法も様々です。電磁波過敏症の「暫定基準」は、それらの症状の一部を拾っただけかもしれません。
  
  WHOは「電磁波過敏症」について、次のように述べています。

 http://www.who.int/peh-emf/project/ehs_fs_296_japanese.pdf
EHS は、人によって異なる多様な非特異的症状が特徴です。それぞれの症状は確かに現実のものですが、それらの重症度はまちまちです。EHS は、その原因が何であれ、影響を受けている人にとっては日常生活に支障をきたす問題となり得ます。EHS には明確な診断基準がなく、EHSの症状を電磁界ばく露と結び付ける科学的根拠はありません。その上、EHS は医学的診断でもなければ、単一の医学的問題を表しているかどうかも不明です。

 まず、ちゃんとした診断基準を作るのが先で、妥当かどうか不明な「暫定基準」に基づいた調査をしても予算がもったいないのではないでしょうか。