私も「メダルキチガイ」

【五輪】「税金泥棒!」選手を罵倒するメダルキチガイ達【リオデジャネイロ
 http://togetter.com/li/1009579

 夏、冬2年ごとの風物詩のメダルキチガイについては、2年半前にも関連の記事を書きました。

称賛と罵倒の受け口としてのオリンピック選手 
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20140212/1392195441

 ソチオリンピック伊藤みき選手を罵倒したメダルキチガイも、さすがに金を取れなかった吉田沙保里選手は罵倒しません。吉田選手の圧倒的な実績にはメダルキチガイも沈黙せざるを得ません。

 でも,考えてみたら、実績とは成績という結果であって、実はメダルキチガイが執着するメダルの集積ですから,罵倒しないのも当然です。私だって,試合内容であるとか、芸術的な技のキレだとか玄人好みの評価ではなくて、ルールも満足に知らない素人でも分かるメダルが嬉しいのです。それでも,成績の悪い選手を罵倒する筋合いがないことは分かります。選手を罵倒するメダルキチガイは、自分が馬主で選手が競走馬だと勘違いしているのでしょう。あるいは、お客様は神様だと思いこんでいるクレーマーにも似ています。お金を出している自分を満足させてくれないなら、金返せというのですから。ただ,この傾向は誰にでもあるようで,「医者っていい商売だよね。病気を治せなくても治療費を返さなくていいんだから。」とこぼす人は結構います。もちろん,医療は病気の治癒を約束する請負契約ではないわけですが,成果は期待するのが普通です。期待するのは悪くありませんし,期待が裏切られると文句を言いたくなる気持ちも分かります。しかし,文句を言う筋合いはないのですね。しかし,納得できない人は多いです。

 スポーツ選手が勝ちを請け負っていないことは医者より分かりやすいはずです。プロスポーツでも、観戦料を支払いますが、それは勝利の請負料でないのははっきりしています。結果が保証された勝負なんて面白くも何ともありません。それでも、あまりに成績が悪いと「金返せ」というヤジも飛ぶわけです。ヤジを言うことは観戦料に含まれていないはずですが,プロは受け入れているようです。不合理でも人間の心理は無視できないからです。そうではありますが、プロスポーツのファンは、勝負以外にも、芸術的な選手のプレイを鑑賞する眼を持っており、それを楽しんでいて,選手のこともよく知っています。そのためか,ヤジも声援めいています。

 これに対して、オリンピックの観客の多くは、ルールも満足に知らないにわか観戦者です。日ごろから、体操や陸上競技を観戦している人は稀で、4年に一度だけ一時的にファンになるだけです。そうした観客は選手のプレイを楽しめるほどの眼をもっていませんし,選手のこともよく知りません。分かり安い派手な技に感嘆することはありますが,主な関心事は勝負の結果です。例えば、私は時間があれば試合の中継を観戦しますが、徹夜してまではみません。翌日の結果の報道だけみて満足しています。観戦しているときも、勝てそうだったり負けそうだという勝負の成り行きにハラハラドキドキしているだけで、選手のプレイを鑑賞するなどいう玄人っぽいことはあまりしません。つまり、私もメダルキチガイと大して変わらず,結果のメダルを期待して観戦しているのです。玄人っぽい楽しみ方よりも、勝負の楽しみの方が人間の本能に近いようで、試合の経過よりも勝負の結果に感動します。

 私は、レスリングに詳しくはないので、正直に言って吉田沙保里選手の技術や能力の凄さはよくわかりません。しかし、残した実績の凄さはわかりますし感動します。そして,これはメダルキチガイが反応するものと同じです。だからといって、オリンピック関係者が私の様なにわかファンを「何もわかっちゃいない素人」だと苦々しく思っているかというと、決してそうではないはずです。むしろ、にわかファンを開拓して、その中から、真正のファンやできれば選手も生まれてほしいというような発言が多いように感じます。ただ,にわかファンが多いと,その副作用として、メダルキチガイが発生しやすいのだと思います。

 ここで,近代オリンピックの歴史を振り返ると,当初はアマチュアリズムが標榜されていました。アマチュアリズムなんてことは趣味としてスポーツができるほど裕福な層だからいえることです。そのため,スポーツを職業にしているプロを蔑視しているようなところがあると批判され,今ではオリンピック憲章にもありません。実際のところ,オリンピックは,宣伝効果による,放映権料やスポンサー料で成り立っている興行であり,プロスポーツと殆ど同じ仕組みです。個々の選手もステートアマや企業アマという実質プロであると以前は批判されていましたが,実態として趣味のスポーツで参加できるはずもなく,現在ではそんな批判は聞きません。アマチュアリズムという言葉は死語になったと言えます。

 オリンピックが興行として成立することが分かってきたのは,ロサンゼルス大会からですが,個々の種目すべてで成立しているわけではありません。マイナーな種目は,オリンピックというブランドなしでは,興行としては成り立ちません。従って,オリンピック運営側はマイナーな競技を切って,観客動員を見込める競技にしようと,種目改正を常に行っています。逆に,オリンピックブランドに頼る必要のないメジャーな競技団体や選手は特にオリンピック参加にこだわりません。特に,冬の競技にその傾向が強いです。

 マイナーな競技では,オリンピックブランドに引き寄せられたにわかファンを真正ファンにしてメジャーになることを目指しています。それは,選手の発言からもうかがわれます。そのために効果的なのがメダル獲得です。競技団体は目標メダル獲得数を掲げて努力しています。オリンピックは非常に規模の大きい興行でありながら,集客力のないマイナーな競技を含み,しかも,にわかファンを相手とした不完全な興行です。そこにメダルキチガイが生まれる土壌があるような気がします。