子宮頸がんワクチンにまつわる計算間違い

【5/29追記】
 はてブコメントで間違いの指摘がありましたので,訂正の記事を書きました。そちらもご覧いください。本記事は自らの計算間違いの見本としてそのまま残しておきます。当ブログのテーマの一つは「錯覚」ということもあります。

「率」の扱い − 「子宮頸がんワクチンにまつわる計算間違い」の訂正
http://d.hatena.ne.jp/shinzor/20160529/1464480070

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 日本だけのようですが,子宮頸がんワクチンには賛否両論が渦巻いています。両論を見てみると,賛と否で全く違うデータを示している場合があります。意見,見解の相違というレベルではなくて,単純に数字が違うのです。「羅生門」の世界ではないので,確実に,どちらかが間違っているか,あるいは両方間違っていることになります。

 具体的な意見として,少し古いですが,鹿野 司氏(賛)とskymouse氏(否)を比べてみます。

 先ず,子宮頸がんワクチンの副作用の確率を鹿野 司氏は「0.004%」と書いています。

http://blog.blwisdom.com/shikano/201306/article_2.html
子宮頸がんワクチンは、比較的新しいワクチンで、これまでの調査で、864万回接種のうち、重篤な副反応、つまり入院治療が必要な副反応があった例が357件報告されている。これはつまり、全体の0.004%だ。

 一方,skymouse氏は,「0.036%」と約10倍の違いがあります。

http://d.hatena.ne.jp/skymouse/20130520/1368984634
328万人の総数の内1196件の副作用の規模は、0.036%であり、2777人に1人が副作用が発生するという頻度である。

 この違いの原因は簡単です。鹿野 司氏は重篤な副反応の数字を示していますが,skymouse氏は副反応全体を示しているのです。実は,skymouse氏の示す1196件のうち重篤なものは106件なので,0.0032%となり,鹿野 司氏とほぼ同じになります。それではどちらの数字を使うのか妥当なのかというと,鹿野 司氏はそれについても説明しています。

副反応の報告は、因果関係を前提としないので、どう考えても関係ないだろうってなものもそれなりに含まれている。極端なことをいえば、ワクチンを接種した後に躓いて転倒して頭を打って死亡したような事例でも、そのワクチンの副反応による死亡例になるんだよね。
(中略)
ただ、筋肉注射はやっぱり痛いものなので、注射後ごくまれにショックで気を失っちゃう人もいるみたい。これも副反応の一つで、これが報告されているから、子宮頸がんワクチンの接種後は、お医者さんは接種を受けた人をすぐに返さずにしばらく様子をみるってことになっている。

 一方のskymouse氏の数字は厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会に報告されたもので,後に障害が残るものが重篤な副作用です。つまり,1196-106=1090件は後に障害が残らないものです。

 二人とも後で,この副作用の数字を子宮頸がんになる比率と比べて判断をしています。その目的からすれば,重篤な副作用を採用するのが妥当でしょう。子宮頸がんは三分の一が亡くなる重篤な病気です。

 次に子宮頸がんになる比率ですが,鹿野 司氏は「2%」と書いています。

http://blog.blwisdom.com/shikano/201306/article_4.html
日本で年間に生まれる女子の数はだいたい50万人で、子宮頸がんにかかる女性は年間に9000人だから、まあ2%の人がこの病気になる。子宮頸がんワクチンを打てば、それが1%に引き下げられるから、まあ、大数の法則を適用すれば、個人の子宮頸がんになる確率を1%にできるって事だ。

 ところが,skymouse氏は,「0.0150%」と書いていて,なんと二桁も違います。

http://d.hatena.ne.jp/skymouse/20130520/1368984634
では、子宮頸がんの発生率は、どれくらいかというと、年間9800人(死亡:約2700人)が子宮頸がんの患者が発生し、大体、日本の女性は0.0150%の確率で子宮頸がんになる。

 驚くべき食い違いですが,原因は分母の違いです。鹿野 司氏は年間生まれる女子の数で年間発生する子宮頸がん患者数を割っていますが,skymouse氏は女性の人口で割っているのです。言うまでもなく,女性の人口で割るのならば,年間新規に発生する患者数ではなくて,全患者数を割らないといけません。鹿野 司氏の計算もあくまで概算ですが,skymouse氏よりは遙かに妥当です。

 常々感じるのですが,率の計算(割り算)には割るもの(分母)の間違いが多いです。自信がない時は,下手に率など計算せずに元の数字を使えばこんな間違いはしません。skymouse氏の率の計算では,副作用が子宮頸がんの倍以上になります。しかしご本人が引用している元の数字を見れば,副作用は3年間で1000人程度(重篤な副作用は100人程度)ですが,子宮頸がんは年間9800人(死亡でも2700人)発生しているんですから。

 そして,ちょっとした計算間違いの結果,両者は重大な判断の違いに至ります。

【鹿野 司氏】

こう考えると、もしオレに娘がいたとしたら、オレはその子に、子宮頸がんワクチンをうけさせるだろうと思う。メリットのほうが、デメリットをはるかに上回っているからね。

【skymouse氏】

もし、自分に娘がいたら、子宮頸がんワクチンは絶対打たせない。一般のワクチンよりの数十倍高い確率で副作用が起き、最悪の場合、中枢神経を破壊するかもしれない毒を子供に与える訳にはいかない。

 もし,「もし」という仮定法じゃなかったら・・・

【5/28追記】
 率計算せずに,実数の方が間違いが少ないと書きましたが,その場合も注意は必要です。ワクチンの接種率は65%(現在は激減)程度だったので,比較のため,子宮頸がんの数字も0.65掛けすれば,年間6300人(思死亡1700人)となります。それでも桁違いですけど。