HIV感染と同性愛

HIV感染の中心、懸念の声」 宝塚市議発言で紛糾
http://www.asahi.com/articles/ASH6S5QGWH6SPIHB026.html

自民党の大河内(おおこうち)茂太市議(44)が「宝塚に同性愛者が集まってHIVエイズウイルス)感染の中心になったらどうするのか、という議論が市民から出る」と発言。

 「発言を取り消すつもりはない。」と言っていましたが,

宝塚市議会>「HIV感染の中心に」発言 市議が取り消し
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150626-00000037-mai-soci

大河内議員は当初「同性愛者を差別する意図はない」などと述べていたが、議会運営委の終了後、取材に「同性愛者とHIVには、密接に関わりがあるという誤解を与えかねない。申し訳ない」と話した。

 あっさり、取り消しました。それは結構ですが,「「同性愛者とHIVには、密接に関わりがある」は誤解ではありません。HIV感染者が同性愛者に多いのは次の資料からもはっきりしています。

厚生労働省エイズ動向委員会
http://api-net.jfap.or.jp/status/2014/14nenpo/h26gaiyo.pdf

 ただし,集団として傾向的な違いがあっても,個人の扱いを変えるのは差別になります。この点を大河内議員は全く分かっていないようで,今後も同じような誤りを繰り返しそうな予感がします。集団の違いで個人の扱いを変えてはいない例としては,凶悪犯罪は圧倒的に男性に多いにもかかわらず,男性の行動は制限されていないことがあります。これはカール・セーガンが「科学と悪霊」(現在の書名訳は変わっているようです)で書いています。

 更に,エイズ動向委員会の資料をよく見てみると,同性愛が本質的な要因ではないことが見て取れます。HIV感染の経路の7割が同性間の性的接触であり,異性間の性的接触は16.4%に過ぎません。しかし,同性愛以上に大きな要因があります。同性間であろうと,異性間であろうと,男性の感染者が圧倒的に多いのです。厚生労働省の資料には年齢別のグラフがありますが,ザッと9割が男性です。女性の感染者はほとんど異性間性的接触で,つまり男性から感染したということです。同性愛はグラフでは見えない程です。もし,集団の違いで扱いを変えて良いとするのなら,同性愛者よりも男性の扱いを変える方が先になります。

 男性に感染者が多い理由は,男性と女性の性的性向の違いで説明されています。男性は性のパートナーの量を求め,乱交の傾向があるのに対して,女性は質を求め,安定した関係を望む傾向があるからです。これは,繁殖の観点からすれば,男性は出来るだけ精子をばらまくのが良いのに対して,女性は一人の子どもの妊娠や育児に時間をとられるので,質のよいパートナーを慎重に選ぶ必要があるためと説明されます。このことは別に進化論を持ち出すまでもなく,性教育でよく言われていることです。「男は無責任に逃げるけど,あとで苦労するのは女だから,軽々しくセックスするな。するなら避妊はせよ」

 こういう男の本能のせいで,異性愛の男性でも,妻以外との性交渉が多くなり感染しやすいのです。一方,相手の女性は娼婦という特殊な職業に集中するので,数としては女性の感染者が少なくなります。男性一般に乱交の傾向があるのに対して,女性は一部の職業に集中しているわけです。つまり,HIV感染を招く乱交は同性愛ではなくて男性の傾向だということです。異性愛の関係では男の本能が女から牽制されますが,男同士の同性愛では歯止めがありません。このことについては,マット・リドレーの「赤の女王 性とヒトの進化」にそのものずばりの記述があります。長くなりますが引用します。

・・・しかし,エイズの到来前は,異性愛者より同性愛者のほうが乱交を行っていたと,同性愛の活動家でさえ認めている。これには単一の納得のいく説明は見あたらない。同性愛の活動家たちは,社会がそれを認めないことが乱交の大きな原因であるというだろう。容認されない行為は,いったん行われると過剰に行われるようになる。男同士がパートナーになるのは,法的にも社会的にもむずかしいために,安定した関係は数少ないのだろう。
 しかしこれにはあまり説得力がない。乱交は,なにも密かに同性愛にふける者だけに限られてはいない。おまけに,異性愛でよりも同性愛でのほうでこそ,不貞は深刻に受け取られており,社会の非難も,安定した同性愛関係よりも一夜限りの同性愛関係に対して厳しい。こういう議論の多くは,ゲイとは全く対照的なレズビアンにも当てはまる。レズビアンは見知らぬ相手と性行為に走ることは稀で,長年にわたるパートナー関係を結び,不貞の心配はほとんど無い。多くのレズビアンは,パートナーの数が生涯で10人に満たないのである。
 カリフォルニア大学サンタバーバラ校のドナルド・サイモンズは,男の同性愛者が男の異性愛者や女の同性愛者よりも平均して多くのセックスパートナーを持つ理由は,女の本能で束縛されずに,男の性向,すなわち本能を行動に移しているからである,と論じ,次のように述べている。
「一般の人と同じく,同性愛者の男も夫婦のような親密な関係をもちたいと思っているのだが,そのような関係の維持はむずかしい。セックスのバリエーションを求める男性特有の欲望があること,男の世界でこの欲望を満たせるというまたとないチャンスがあること,性的嫉妬を感じやすいのが男の性向であることなどが大きな理由である。異性愛の男たちも同性愛の男たちと同様に,見知らぬ相手と頻繁にセックスし,公衆浴場での乱交パーティーに匿名で参加し,職場からの帰り道,公衆便所で五分間のフェラチオを求めるのではないかと私は考えている。もし,女性がそう言う行為に興味を持つのであれば」
 これは同性愛者が安定した関係を望まないとか,多くの同性愛者が匿名のセックスによって道徳的に嫌悪されていると述べているのではない。サイモンズの論点は,生涯の伴侶と一夫一妻の関係を結びたいという願望と,見知らぬ相手とその場限りのセックスを楽しみたいとういう欲望は,矛盾した本能ではないということだ。旅行中の幸せな亭主族に,高値でセックスの気晴らしを提供するコールガールやデートクラブが繁栄している実態からもわかるように,そうした本能は異性愛の男の特徴だといえる。サイモンズは同性愛の男についてではなく,男性一般について論じているのだ。彼が言うとおり,同性愛の男はいっそう男らしく,同性愛の女性はいっそう女らしくふるまっているだけなのである。