わいせつの規制

ろくでなし子さん再逮捕、北原みのりさんも 「女性と性」の論客2氏を相次ぎ逮捕 弁護士「不当逮捕だ」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20141203-00010003-withnews-soci

 「今頃,わいせつだなんて警察も暇だね」なんて感想も見かけますが,私はそうは思いません。警察はしつこく,逮捕を繰り返しますよ。暇だからじゃなくて,性が人間にとって最も重要で関心のある事柄であり,警察も人間が作った組織だからです。性以外の他のことは性のための手段とさえ言ってしまっても過言ではありません。それは言い過ぎと思う向きもあるでしょうが,現在は性とは無関係に見えても発祥は性に絡んでいるものが殆どです。

 警察は治安維持のためにあります。治安維持は社会体制の安定のために行います。社会体制は協力行為や協調行動で生産性を上げるために人類が選んだ戦略です。生産性を上げるのは豊かな生活のためです。豊かな生活がなぜ嬉しいのかというと,子孫を多く作ることができるからです。子孫を何故多く作るかというと理由はありません。ただ,子孫を多く作るものの子孫が我々だからというだけです。例外もありますが,子孫を残しませんので,常に少数派です。

 繁殖の制度として,人間社会には一夫多妻制,一夫一妻制,乱婚制があります。一妻多夫制はマイナーです。これは男にも女にもあまりメリットが無いからです。それ以外の制度は男女ともにメリットがあります。また,一夫一妻制には,不倫が付きものです。不倫にもメリットがあるからです。これは性淘汰の理論ですが,私が理解している範囲で簡単かつ乱暴に説明を試みます。

 人間は脳がが大きくなったので,未熟児で出産します。そのため,育児の期間が長く,負担も大きくなっています。この負担を如何に男に分担させるかが女の戦略となります。女にとって,自分が出産した子供が自分の子供で,他の女が出産した子供は自分の子供ではないことは一目瞭然です。従って,自分が出産した子供の育児が最も重要です。一方,男は性交渉を持った女が出産した子供のすべてが自分の子供である可能性もありますが,他人の子供の可能性もあります。この違いが男女の戦略の違いとなって現れます。

 貧富の差が大きい社会での女の戦略の一つが一夫多妻制です。最も優秀な遺伝子を持ち育児に資する生活力を持つ男を夫とすれば,育児の成功の可能性が高まります。その際,夫が他の妻を持とうが影響は大きくありません。精子は無数に配分できる量がありますし,強大な生活力を持っていれば,複数の妻の子の育児にも支障はありません。男が育児の保証をしてくれるなら女にとっては良い戦略です。しかし,男にとっては非常にリスクの大きい制度です。ボスになれれば繁殖を独り占め出来ますが,ボス以外は一生独身で子孫を残せません。

 乱婚制は,男は育児をせず,子孫を残せる可能性があるのでありがたい制度ですが,女にとってはあまりメリットがありません。それでも,育児の負担の少ないチンパンジーのような動物は乱婚です。人間でも,技術的に育児の負担が軽くすることが出来たり,女にも生活力が十分に付けば,この制度が可能になり得るかもしれません。その場合でも男女の戦略は違って来ます。女は自分の体でしか子孫を残せませんから,相手を慎重に選ぶ必要があります。一方の男は相手構わず出来るだけ多くの相手と性交渉した方が得策です。そのため男が売り込みのアプローチをして,女が審査して相手を選ぶスタイルが多くなります。

 一夫一妻制は,男女の争いというよりは,男同士の争いの結果みたいなところがあります。一夫多妻制で辛酸をなめている男がボスに反乱を起こし,妻を獲得します。その際,育児の保証をしないと女は了解しませんから,婚姻関係は育児期間を含む比較的長いものになります。女にとっては優秀な遺伝子と抜群の生活力を持つボスの方が良いのですが,生活圏が分散して巡り会いの機会が少ない場合は,身近にいる相手を夫にするしかないわけです。ですから,夫よりも優秀な遺伝子を持っていそうな隣人が現れたら不倫をするのが得策です。夫にばれないように行えば,育児の負担は夫に任せて,優秀な遺伝子の子孫を残せるので大きなメリットがあります。もちろん,夫はいい面の皮ですから,様々な手段を工夫して,それを阻止しようとします。そこに興味深い文化や人間模様が出現します。人間以外の一夫一妻制の動物も不倫をするそうです。それもばれないようにこっそりと。そのため動物学者もなかなか気づかなかったそうです。

 一妻多夫制は説明するまでもないでしょう。女にも男にもメリットは殆どありません。沢山の夫がいても一度に妊娠,出産出来るのは一人程度ですから女にとっては意味がありません。ただ,男の人口が多い社会や,非常に貧しく,一人の夫によって育児を負担できない場合にはみられます。
 
 人間社会では,歴史的に3つの制度の変遷がありますので,遺伝的に決まっているのではなく,環境に合わせて変わってくるものだと考えられます。現代日本は一夫一妻制です。前述のようにこの制度では隙あらば女は不倫しようとします。男は言うまでもなく浮気します。(ちなみに「不倫」とは妻の行為にしか用いない差別的用語です。)これを放置すれば乱婚制になりますので,規制しなければなりません。本能的な行為だからこそ規制が必要になります。わいせつや貞操の概念,性倫理がこうして生まれたのだと思います。この概念は文化という柔らかい形で組み込まれたり,法規制というやや固い形もあります。取締担当は宗教部門が長らく担ってきましたが,宗教の自由を標榜する現代日本では警察も絡んでいます。

 なお,制度を乱す直接の原因は庶子の出産です。庶子即ち他人の子供を育てさせられるのを阻止するために,それに繋がる性的行為や快楽も法的倫理的規制を受けているのです。もし,出産のコントロールつまり避妊が可能ならば,理屈上は規制は不要になります。繁殖と性的行為や快楽が分離できれば,後者を規制する必要はなく,自由にしても不都合はありません。更に,性病が制御可能になれば将来的には規制がなくなる可能性もあります。ただ,それには長い時間がかかると考えられます。繁殖につながらない同性愛などは昔から存在しますが,規制を受けてきました。物理的には制度に影響を与えない筈ですが,心理的,間接的な影響を与えるとみなされたのだと思います。制度が認めた正統な行為以外は無害でも取りあえず御法度にすることは安全側の措置として良くある事です。

 だから警察は相変わらずわいせつを取り締まるのであり,今後も暫く続けるでしょう。

【注記】
 進化論の知見を短絡的に社会現象の適用するのは危険であり,この文章もその危険を覚悟の上で提示していますので,ご批判を歓迎します。

 本能に基づく行為というと,正当化しているような誤解を与えますが,全く正当化されません。本能は制御が必要な場合もあり,規制も必要になります。同様に,必要であった規制が形骸化して無意味になっても維持する傾向もあります。それまた本能と密接に関係しますが,正当化できません。