パターナリズム、配慮、そしてタブー

 世間には、被害者、病人、被差別者など弱者の方が沢山います。このような方たちには助けが必要ですが、過大な要求があった場合の対応は結構面倒です。元々ハンディを抱え、不利益を被ってきたという経緯を考慮し、優遇すべきですが、無制限というわけにはいきません。で、その判断の基準ははっきり言ってありません。
 優遇に付きまとう弊害は、エセ弱者が現れることです。障害者に対する補助を不正受給していた暴力団関係者とかエセ同和団体の問題などです。後者には私自身悩まされたことがあります。大したことはなかったのですが、対応を誤ると面倒なことになります。本来助けを必要としている方を利用する悪質な行為ですが、本物とエセが明確でなく、なんとなくつながっていたりするのでややこしいです。

 私が思うに、根っからの悪人のエセや、善人の弱者というステレオタイプはフィクションだけで、現実は微妙に混じり合っています。それは、普通の人々を見ても、根っからの悪人や仏様のような善人はめったにいないのが現実です。ところが、弱者に関しては善人として扱わなければいけないような圧力を感じてしまうのですね。そんな圧力など存在せず、私の頭の中の妄想でしょうか。でも、なんとなくタブーというものを感じます。国家権力の圧力ではなく、大衆の圧力のようなもので非常に嫌な感じなのですね。このタブーというのは、弱者を援助したいという善意が発端であることは間違いないと思います。でも、どこかでおかしくなってしまうのです。

 化学物質過敏症患者さんにシンパシーを示すyunishioさんは、苦しんでいる患者さんを更に苦しめるような行為はよくないという、まあ普通の感覚が出発点だったのだろうと思います。ところが、議論をしていくうちに、極端なパターナリズムを公言してしまいました。

 ご自身のブログの「患者の自己決定権」という記事で、認知症の祖母の妄言を例に出して、弱い立場の患者さんの発言は間違いでも否定してはいけないと語っています。患者に接する態度としては普通のことだと思いますが、yunishioさんが違うのは、ネット上のオープンな場でも、それを求めていることです。その点は、地下猫さんとのやり取りで非常に明確にあぶりだされました。

https://twitter.com/yunishio/status/346800435417477120
それは医療者の立場に立ったご意見ですね。患者は、医師のウェブへの発言によっても追いつめられることがあるんですよ。カジュアルな、非公式な発言であっても、そうでなくても。

これは,診療室の外のネット上の議論でも,患者さんの感情を害するような情報発信を禁止するもので,社会全体で,患者さんを暖かく騙してあげようというパターナリズムです。心優しき社会の家父長が民衆を騙して幸せな気分に浸らせてくれるという、感動的でかつ途方もない言論規制です。こ本人はお気づきでないようですが、ご自身の上記のような意見の発信も制限されなければなりません。患者さんの目に触れたら嘘がバレてしまうからです。パターナリズムはオープンな議論を否定します。

 さらに、最近、患者さん自身が、言論規制を求めてきました。

貴方に医者としての良心が本当にあるのなら、もう辞めて下さい。本当に辞めて下さい。今すぐ化学物質過敏症のデタラメなブログやサイトは削除してください。そして、本当に化学物質過敏症を否定したいのであれば、直接北里大学の先生と論文書くなりして戦って下さい。その分には一向に構いませんから。momomo_ensemble

 この発言は自分の気に入らない意見を自分に対して言ってくれるなというだけにとどまらず、自分の目に触れる可能性があるから公にするなということで、yunishioさんの主張を患者側からも求めたものです。目に触れなくなっただけで、裏のどこかでそういう話がされているのなら、心安らかではいられないと思うのですが、とりあえず今は目にしたくないということでしょう。

 対等な立場同志であれば、「お前の顔を見ると気分が悪くなる」と言われれば,押しかけて顔を見せるようなことはしてはいけませんが,公共の場へも顔を出すなという要求は受け入れられません。しかし、対等な立場でなければ、こんな理不尽が通ることもあり、すこし不安です。

 心身に悪影響を受ける可能性があり配慮が必要な場合は、身内の方や主治医がそのような場に出て行かないよう配慮するべきだと私は思います。患者さんの自由は尊重されるべきですが、心臓病なら激しい運動は制限するように、議論に耐えないなら、議論をしないように近親者が配慮すべきで、逆に、他者の公の場の言論を制限するのはあまりに弊害が大きすぎます。特にネット上では、個別の事情は判りません。すべての人が対等な立場というのがネットの原則でしょう。

 しかし、親身に心配してくれる人がなく、議論に耐えない人がネットの世界に出てしまった場合は、緊急避難措置もやむを得ません。心身に悪影響がありそうだと相手側が判断した場合には、議論を打ち切るかもしれません。NATROMさんもそう判断したのでしょう。ただ、本来は行うべきでない緊急避難であることは強調したいです。自由な議論が制限を受けてしまったからです。

 このようなことが続くと、化学物質過敏症患者は相手にしてはいけないタブーになってしまうおそれがあります。患者さんは、それで満足なのでしょうか?表面上は誰も気に障ることは言いません。しかし腹の中は「触らぬ神に祟りなし」であり、yunishioさんが望んでいる状況です。実は、yunishioさんは意識的ですが、無意識に結構多くの人がタブー形成に関わっているような気がします。最初に「医原病」発言があった時に、NATROMさんに賛同する人でも、失言、言いすぎという意見が結構あったからです。多分、刺激的すぎる、相手への配慮が足りないという理由だと思うのですが、そもそも「医原病」は患者さん批判ではなく臨床環境医批判です。それでも患者さんの心理状態としては自分が信頼しているものを批判されれば気分が悪いわけですね。でも、怪しげな商品にはまっている人に、本当のことを教えるのは、相手を傷つけることなのでしょうか。普通はそうではないでしょう。本当のことを控える配慮をするのは、相手が普通の心理状態ではないと考えている場合です。ネット上の議論では、そのような情報はある程度議論をしてみないと判りません。それが、すぐに判るということは、既に化学物質過敏症患者さんはそういう目で見られているのでしょうか。