なかなか改正されない建設省告示第1102号(S56)

 5年以上前に次の記事を書いた。

意味不明のコンクリート強度の告示

  昭和56年建設省告示第1102号について文句を付けた記事だが、その後2016年3月17日に改正された。改正はされたが、コンクリートの圧縮強度試験の供試体の種類に標準養生供試体が追加されただけで、私が削除して欲しい次の規定はそのまま残っている。(削除して欲しいのは「材齢が28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値に7/10を乗じた数値以上であり、かつ、」の文言)

 コンクリートから切り取ったコア供試体又はこれに類する強度に関する特性を有する供試体について強度試験を行った場合に、材齢が28日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値に7/10を乗じた数値以上であり、かつ、材齢が91日の供試体の圧縮強度の平均値が設計基準強度の数値以上であること。

 今回は、建築の専門家以外の読者にも、告示の規定の奇妙さを感じてもらうため、例え話にしてみた。以前にも使った「めいわくだもの」が主人公である。ただ、以前の「めいわくだもの」を読み返してみると、例え話なのに複雑すぎて全然わかりやすくなかった。そこで、今回は単純な話にしてみた。

 「めいわくだもの」の糖度試験 

 「めいわくだもの」は、甘さ(糖度)がセールスポイントの人気のフルーツである。農家は、種を播いてから91日目で果実を収穫し、出荷する。出荷前に糖度を測定して合格したものだけが「めいわくだもの」ブランドを称することができる。

 ただし、糖度測定を行った果実は傷が付くので、売り物にならない。そのため、小ぶりの測定用果実を使う。見た目が悪く商品にはならないが、低コストで、糖度の推測には十分なのである。この測定用果実には2種類ある。一つは、実際に出荷する果実とほぼ同じように成長するもので、91日目に糖度を測定する。二つ目は、熟成が早く28日目で実際に出荷する果実の91日目の糖度とほぼ同じ値に達する。これを用いる場合は28日目で糖度確認ができる。いずれの測定用果実を用いても良い。

 もし、測定用果実の糖度が不足した場合は、実際に出荷する果実から抜き取り確認をする。その果実は無駄になってしまうので、最後の手段である。

 ここまでは、普通である。だが、この後に異世界の様相を呈してくる。91日目で確認する測定用果実には奇妙な条件が付けられているのだ。91日目で規定の糖度に達していても、28日目で規定糖度の7割を超えていなければならない、という条件である。何故、そんな条件が付いているのか不明なのだが、一説によると、28日時点で7割を下回っていると、91日目で規定を満足することは難しいかららしい。確かにそういう傾向はある。あるけど、傾向と違って、91日目に糖度が十分あっても不合格になるのである。

  正確さを少々犠牲にして単純にしたが、まだまだ分かりにくいかもしれない。思い切って、2行に圧縮した。

  大相撲の新弟子検査では、身長167cm以上で合格だが、10歳の時120cm以下だったら検査時点の身長が180cmでも不合格になる。

 

 さて、私はこの規定が気になって仕方ないのだが、実害は余りないらしく、国交省へのクレームもないそうだ。現場封かん養生供試体を使わなければ済むし、材齢28日で設計基準強度の7割を下回ることはほとんどないからだ。でも、気になる。

HPVワクチン接種の積極的勧奨

■ 積極的勧奨って何?

 HPVワクチンの積極的勧奨は、2013年6月14日に一時差し控えの状態になりました。もう6年が経過してしまいました。ところで、「積極的勧奨」ってどういう意味なんでしょうか。私には、どうもよくわかりませんが、厚生労働省は次のように説明しています。

 

子宮頸がん予防ワクチン接種の「積極的な接種勧奨の差し控え」についてのQ&A

 

問2 「積極的な接種勧奨の一時差し控え」とは、具体的にどのような措置なのでしょうか。定期接種の中止とは何が違うのでしょうか。

答2 A類疾病の定期接種については、予防接種法に基づき市町村が接種対象者やその保護者に対して、接種を受けるよう勧奨しなければならないものとしています。

 具体的には、市町村は接種対象者やその保護者に対して、広報紙や、ポスター、インターネットなどを利用して接種可能なワクチンや、接種対象年齢などについて広報を行うことを指しています。

 

一方、「積極的な接種勧奨」とは、市町村が対象者やその保護者に対して、広報紙や、ポスター、インターネットなどを利用して、接種を受けるよう勧奨することに加え、標準的な接種期間の前に、接種を促すハガキ等を各家庭に送ることや、さまざまな媒体を通じて積極的に接種を呼びかけるなどの取り組みを指しています。(※)

 

※子宮頸がん予防ワクチンの場合、政令で定める標準的接種年齢(中1相当)を迎える前に個別に通知することが一般的です。

 

今回の「積極的な接種勧奨の差し控え」は、このような積極的な接種勧奨を取り止めることですが、子宮頸がん予防ワクチンが定期接種の対象であることは変わりません。このため、接種を希望する方は定期接種として接種を受けることが可能です。 一方、定期接種の中止とは、子宮頸がん予防ワクチンを定期接種の対象外とすることで、すべての子宮頸がん予防ワクチン接種は予防接種法に基づかない任意接種として取り扱われることになります。

 

  つまり、こういうことです。「勧奨」とは、広報紙や、ポスター、インターネットなどを利用しした広報であり、「積極的勧奨」とは、接種を促すハガキ等を各家庭に送ることらしいのです。でもですよ、厚労省は「積極的勧奨」だけでなく「勧奨」もやめているように思えるんですよ。まあ、私が広報を目にしていないだけかもしれませんが、「広報」はするが「個別通知」はしないのは、どういう結果を期待しているんでしょうか。接種率は高すぎず低すぎずの中庸を目指しているのでしょうか。それにどんな意味があるんでしょうか。皆目わかりません。定期接種とは、接種すべきと予防接種法に定められているものです。だから、都道府県知事や市町村長は「勧奨」しなければならないと予防接種法にも定められているわけです。そのような定期接種でありながら、「勧奨」はするが「積極的勧奨」は差し控えるという中途半端な対応はなかなか理解しがたいものがあります。

 仮に反ワクチン派の言うように、HPVワクチンに問題があるのなら、定期接種から外すべきでしょう。中止するほどリスクは高くないので定期接種は続けるが「積極的勧奨」は差し控える、というのはイソップ寓話のコウモリみたいじゃないですか。

 というような疑問を感じつつ、少しでも疑問が解消しないかと予防接種法を見てみました。ところが、疑問は解消するどころか、厚労省はとんでもないウソをついているのではないかという疑問が膨らんでしまいました。いやもちろん、専門外の私が法令を十分に理解できていないだけかもしれませんが、一応その疑問を述べて見ます。

 

■「積極的勧奨」と「勧奨」などいう区別はない

 予防接種法には「勧奨」という言葉は第8条に出てきますが、「積極的勧奨」は見当たりません。そして「勧奨」か「積極的勧奨」かなどということに関わりなく、予防接種法施行令には、(対象者への周知)として、次のように書いてあるのです。

 

予防接種施行令 

(対象者等への周知)

第六条 市町村長は、法第五条第一項の規定による予防接種を行う場合には、前条の規定による公告を行うほか、当該予防接種の対象者又はその保護者に対して、あらかじめ、予防接種の種類、予防接種を受ける期日又は期間及び場所、予防接種を受けるに当たって注意すべき事項その他必要な事項を周知しなければならない。

  

 厚労省のQAでいう「広報」の公式なものが「広告」です。そして、厚労省のQAでいう「接種を促すハガキ等を各家庭に送る」ことが「当該予防接種の対象者又はその保護者に対して、・・・必要な事項を周知」としか私には解釈できません。つまり、対象者への個別の通知も「勧奨」です。定期接種であるならば、しなければならないものです。だからHPVワクチン以外の定期接種は全部通知されます。HPVだけが異例です。

 あえて言えば、予防接種施行令6条の「周知」も「広報」であり、個別の通知は不要とも解釈できないこともありません。しかし、そう解釈するとHPVワクチン以外の定期接種の通知もしてもしなくてもいい重要度の低いものになってしまいます。しかし、個別の通知は接種率に影響する重要なものであることは最後にまた述べます。

 

■ 責任逃れの疑い

 予防接種関連法には、「勧奨」と「積極的勧奨」という区別はなく、個別の通知も重要な「勧奨」であり、行わないのは不作為の違法だと私は思います。違法であることをごまかすための姑息な手段が「勧奨」と「積極的勧奨」の無理やりの区別だと私には思えます。個別の通知を行わなくても法に定める「勧奨」をしているように見せかけることができるからです。ではなぜそんなことをしなければならないのか。誰でも思いつくのは、厚労省が薬害訴訟を恐れていることです。

 少なくとも、現時点では、HPVワクチンは害よりも利益が大きく、接種を控えるのは被害を増やすという見解が国際的なものですし、日本国内でも、日本小児科学会、日本小児保険協会、日本産婦人科学会、日本小児科医会、日本保育保険協議会、日本感染学会、日本呼吸器学会、日本渡航医学界、日本耳鼻咽頭科学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本環境感染学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会、日本最近学会、日本臨床ウイルス学会、日本産婦人科医会、日本婦人科腫瘍学会その他専門家の一致した見解です。だから、厚労省の専門家会議でも「定期接種を中止するほどリスクが高いとは評価されない」と言っています。中止すれば、将来、責任を問われること必至です。

 一方で、反ワクチン派の薬害訴訟の恐れもあるというか既に行われています。害より利益が大きいというのは統計的な意味であって、個別の接種者には害が大きい人も出てくる可能性もあります。だからこそ副反応による対応も予防接種法に定められているわけです。リスクはゼロではありません。それは仕方ありませんが、世の中には避けられない被害の責任追及までする人々がいて、厚労省は彼らに苦しめられてきたので、腹がくくれないのかもしれません。薬害事件の歴史ゆえに、羹に懲りてなますを吹くようにしてしまったのですかね。 

 ところで、個別の通知は「勧奨」の重要なものと言いましたが、データをみれば歴然としています。80%もあった接種率が個別通知を止めたため、ほぼ0%になってしまいました。「勧奨」はしており「積極的勧奨」を止めただけといったところで、「勧奨」を止めたというのが実態です。接種率がほぼ0%で勧奨もクソもありません。でもそれは厚労省にとって薬害訴訟がなくなるという有難いことです。一方で子宮頸がん被害は増えますが、因果関係の証明は出来ないので裁判になりにくいし、定期接種と形だけの勧奨はしていたので恐れることはないというわけです。

 

【追記】厚労省は勧奨をしていると見せかけていると書きましたが、おそらく意識はしていないと思います。苦渋の選択で最も正しいことをしているつもりなのではないでしょうか。それがまた恐ろしいところです。

水質基準の根拠

 お台場海浜公園会場の水質悪化で、パラトライアスロンW杯のスイムが中止になりました。ネットでは、ウンコ水という風評一色で、東京都には打撃です。2014年から人工砂浜を作り、海水浴を期間限定で始め、将来的に期間拡大しようとしていますからね。

 一般向けの海水浴場としては前途多難ですが、一部のスキ者は、以前からあの醤油ラーメンスープに浸かって遊んでいて、実は私もその一人でした。お台場は、ウィンドサーフィンの初心者の練習場でしたので、20年以上前のことですが数回利用したことがあります。

 また、私は知らなかったのですが、20年以上にわたり、トライアスロン日本選手権のスイム会場となっていたそうです。つまり、一般の人はともかく、一部のスキ者は昔から利用し、たまにうっかり水を飲みこんだりしてきた歴史があるのです。しかし、ニュースになるような健康被害は発生していません。私も大丈夫でした。

 ネットの意見は、あの水に浸かったこともなく、今後も浸からないであろう一般の人のものがほとんどだと思います。見た目はラーメンスープですし、基準の2倍の糞便性大腸菌と報道されると、一般の人がウンコ水と言うのも無理は有りません。しかし、個人的経験からは、それほど心配することはないという感覚なのですね。だた、それは、喫煙者が個人的経験がらタバコは無害と主観で主張するのと同じかもしれません。競技の水質基準の2倍という値がどれほどの健康被害をもたらす恐れがあるのかは、基準とその根拠を知る必要があります。ということで調べてみました。

 調べる糸口として、報道の記述を見てみたところ、どの報道を見ても「基準値の倍」と書いてあるばかりで具体的な値はありません。日本トライアスロン連合(JTU)のオフィシャルサイトにも見当たりません。基準そのものは、国際組織のITUのものらしいので、ITU競技規則の簡易和訳版も見たのですが分かりませんでした。やっとのことで、基準値だけは、2017年に行われた「お台場海浜公園における水質・水温調査結果について」の中に見つけることができました。しかし、その根拠は不明です。

 そこで、水浴場の水質基準など関連する他の基準が参考にならないかと思い、調べました。まとめると次の表のようになります。

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 ここで、指標が大腸菌数、ふん便性大腸菌群数と大腸菌数の3種類あります。「水浴場の水質判定基準におけるふん便性大腸菌群数について」によると、人体への健康影響の指標としては大腸菌数が一番適切らしいのですが、測定が面倒なので大腸菌群数などを、代替指標として用いてきたそうです。その後、水道水質基準は大腸菌数に平成16年に、また、遊泳プールの衛生基準も大腸菌数に平成 19 年に改正されたそうです。これらの指標には、大腸菌群数>ふん便性大腸菌群数>大腸菌数 という関係があります。

 前述の「水浴場の水質判定基準におけるふん便性大腸菌群数について」を読むと、これらの数値の根拠らしきことが書いてあります。基本的な方針は、「健康障害発生の可能性を根拠に決定する。」となっています。ただし、飲料水や食品のように、動物実験などで直接的に健康障害を調べてはいないようで、我が国や諸外国の水浴場の現状を基に決めているのが実態みたいです。特に、アメリカの諸州の状況は、大腸菌群が1000とか2000以下という基準だったようで、それで特に問題が生じていないのでそれに倣ったという程度の決め方のようです。

 つまり、健康被害の発生する値に安全率をかけて基準にしたのではなく、問題の生じていない水浴場の値を採用したわけです。従って、基準値を満たせばほぼ安全とは言えますが、基準値をどの程度上回ると健康被害が生じるのかは不明です。実際のところ、健康被害よりも、透明度や臭いという快適さに関わる要因が水浴場の基準としてはクリティカルという気もします。

 また、FINAは、水温のみで水質の基準は開催国に一任しています。一任された日本は、水浴場水質基準の最低ランクCを採用しています。競技では水質はあまり気にしていないようで、水温がクリティカルなのかもしれません。パラトライアスロンW杯出場選手のコメントも水温に関するものでした。

 さて、気になるのは、「大腸菌数を250個以下(ITU基準)」と「ふん便性大腸菌群数を1,000個/100ml以下(水浴場の基準)」では、どちらが厳しい基準なのかです。大腸菌数はふん便性大腸菌群数より少ないのですが、その比率は一定していませんので、一概には言えません。ですが、幸いなことにお台場では、前述の2017年調査で両方を調べており、その比率が分かります。測定場所や日時で大きな違いがありますが、おおよそ、ふん便性大腸菌群数は大腸菌数の倍というところです。一方、基準値は大腸菌数が1/4なので、お台場に関してはITUの基準が厳しく、ITU基準の2倍でも、水浴場基準ギリギリとなります。つまり、トライアスロンのスイム会場としてはNGだったけど、海水浴場としては「可」の可能性もあったということです。

 もちろん、スイム開催日1日だけに水浴場の基準を機械的に当てはめただけで、他の日には大幅に基準超えしているので海水浴場として適しているというわけでは有りません。また、「ふん便性大腸菌群数を1,000個/100ml以下」は最低のC判定であって、実際の日本の他の海水浴場は、お台場よりはるかにきれいです。令和元年の海水浴場の調査結果では、不検出のAAが72%、100個以下のAが13%です。

 以上をまとめると、お台場は他の海水浴場より格段に汚いのは確かですが、基準値超えで健康被害が発生するかは不明です。私の経験からは問題ないと思います。それでも、基準は基準なので競技は中止しなければなりませんが、屋外の自然環境で行う競技では、中止や延期はよくあることで、大騒ぎするようなことでもないと思います。

縦に引っ張ると、横にも伸びる

 

 

 瞬間的にポアソン比を連想しました。ポアソン比は、弾性体を引っ張るとその方向に伸び、直交方向は縮みますが、その比です。材料力学や構造力学の最初に出てきます。

ポアソン比 

 しかし、少し考えてみると、弾性体は縮みはするものの、布のようにたるんだりしわが出来たりはしませんので、無関係のような気がしてきました。そこで、大昔に習ったポアソン比について、ウィキペディアを眺めていると、面白い記述を発見しました。ポアソン比は負の値もありえるのですね。

ポアソン比

 つまり、縦に引っ張れば、直交方向の横にも伸びるという常識に反する場合があるのです。何故そんな奇妙なことがあるのかを説明した概念図もウィキペディアに示してありました。

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ウィキペディアの図

 学校で習った時には、ポアソン効果が何故起こるのかなんて考えもしなかったのですが、この概念図を見ると単純なことだと分かります。常識に反すると思えた負のポアソン比も不思議でもなんでもなくなりました。物質の幾何学的結晶構造によって、力を加えた方向以外にも変形が伝わるわけですね。そういえば、これを利用したおもちゃもありました。

仿生獸與伸縮球.AVI

マジックボール 投げると大きくなる不思議なボール 伸縮ボール

 

 ポアソン効果は、弾性体の結晶構造によるものだと分かったところで、布に戻ってみると、これもまた繊維構造ですので、引っ張った方向と直交方向にたるんだりしわがよるのも同じ理屈だとなんとなく分かってきました。ちゃんと考えると、次のようになるかと思います。

 布地の織り方は様々ですが、一番単純な縦糸と横糸でできた格子状の布を考えます。この布を下図Aの向きに引っ張ると、直交方向には縮むことが容易に分かります。ところが、図Bの向きだと、直交方向には変形しないはずです。実際に、手持ちのハンカチで試して見ると、図Aではしわしわになりますが、図Bではしわになりにくいです。それにしても図Bでも多少のしわが出来ます。それについては、引張力のバラツキが原因だと思います。図Cのように、ちょっとした原因で、引っ張られている糸の位置にズレが生じると、それに絡んでいる直交方向の糸がジグザグに折り曲げられて、縮むのでしょう。

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 実は、以上の説明は直交方向に縮むというもので、たるんだりしわがよる説明としては不足です。この点については、布はペラペラの二次元なので、面外方向に簡単に座屈するのだと思います。例えば、図Aの場合、主たる縦糸と横糸は共に引っ張り力なので座屈する要因はありませんが、縦糸と横糸で形作られるひし形の中にも糸くずが絡みついていれば、それが圧縮力を受け座屈します。あるいは、布の厚み方向の僅かな変形の差で面外方向の変形が引き起こされるのかも。

 

うなぎ屋のコウモリ ー NHK -

 立花氏の言動はアレだけど、「NHK放送のスクランブル化」はごく普通の主張ですね。

 多くの国会議員が「法令で受信料支払い義務がある」と勘違いした発言をしています。放送法では、支払いではなくて、契約を義務付けています。同じじゃないかと言う人もいますが、大違いです。契約とは私法上の契約にしろ公法上の契約にしろ、対等な当事者の合意に基づくものです。乙が甲に義務付ける甲乙契約などというものは矛盾だし、契約の意義をないがしろにしていますね。逆に、法令で支払い義務があるのなら、契約なんか不要です。不満でも、契約なんかしなくても、憲法に納税義務があるので、税金はとられます。

 この契約義務化が放送法の最も奇妙奇天烈な所です。法令で強制的に義務化しておきながら、合意に基づいているという体にするのは、ヤクザのみかじめ料請求の言いぐさですよ。報復を匂わせて強要しておきながら「お願いされたので警備しているだけ」と当事者合意による用心棒契約を装うわけです。

 ヤクザの報復示唆にあたるのが訴訟です。大抵、NHKの勝訴になりますが、その根拠は放送法です。敗訴になって受信料を支払えば、契約したことになり、自主的に合意して支払ったとみなされます。脅して強要したくせに酷い話です。

 契約とは、何かを提供し、その対価を支払うという取り決めです。その前提には、対価を支払わなければ何も提供されないことがあります。支払わなくても提供されるなら、対価を支払う馬鹿はいませんから当然です。垂れ流したうなぎの匂いの代金を請求するのは落語だけです。通常の放送はその前提が成り立たないので、受信料を取るためにはスクランブル化が必須です。

 スクランブル化とは、有料道路の料金所みたいなものです。通行料を払わないと通行できないようになっているわけですが、NHKがやっていることは、料金所を設けないだだ漏れの道路を作って、自動車を持っている人全員から通行料を聴取するようなものです。NHK道路は利用しないといっても聞いてもらえません。結局、この奇妙な有料道路は、税を財源とした一般の道路と本質的に同じになっています。ただ、大きな違いがあります。共有の税金ではなく、NHK専用の「税金」が徴収できるという特権性です。

 道路は公共的性格がありますから、税金を使うのが妥当なように、NHK放送も公共放送と言うのなら、税金で運営すればいいのです。でも当のNHKが一番嫌がっているはずです。なぜなら、国の機関になってしまい、国の介入や制約が増え、職員も国家公務員になってしまうからです。現状のような高給(平均年収1000万円超)や自由な運営は望むべくもありません。

 自由な運営と高給を望むなら、高速道路株式会社のように、ただ乗りさせないようにスクランブル化して運営すればいいのです。でも、これまたNHKは嫌がります。有料道路と違って放送事業では競合する民間放送事業者がいて、競争に負けるのを恐れているんでしょう。つまらなくて誰も見なくても料金が取れる仕組みは魅力的ですからね。

 つまり、NHKイソップ寓話の卑怯なコウモリさながら、鳥(公共)と獣(民間)の立場を都合よく使い分けています。それを可能にしているのが、もはや使命を終えた放送法じゃないかと。

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調合管理強度と構造体コンクリート強度 - 責任の所在

 前記事に引き続き、コンクリートの話である。調合強度とは別に、調合管理強度と構造体コンクリート強度という強度があり、これについては確認の試験を行う。2種類ある理由は、責任の所在を明確にするためである。

 建物の注文主にとっては、完成した建物のコンクリート強度が確保されていればよい。それを確認するのが、構造体コンクリート強度の試験である。本来はそれだけでよい。ただ、建設業は多重下請け体制であり、コンクリート工事も元請のゼネコンの下に、下請けの施工者がいて、更に材料を提供するレミコン工場がある。関係者が輻輳しているため、構造体コンクリート強度が不足した場合、誰の責任であるか明確にする必要がある。そのため、現場に納入された生コンの品質を確認するのが、調合管理強度の試験である。調合管理強度が確認できていれば、構造体コンクリート強度が不足ししても、生コン工場の責任ではなく、施工者の責任と分かる。

 しかしである、可能性は極めて少ないと思うが、構造体コンクリート強度は十分にあるにもかかわらず、調合管理強度が不足した場合は、どのような対処をすべきだろうか。結果的に完成した建物の性能は十分あるのだから、取り壊して再施工させるのは過剰反応だ。生コン工場のペナルティは当然だが、施工者や発注者にとっても工事の遅れなどの被害を被る。既製品の材料なら受けいれ時の品質に不備があれば突き返せるが、コンクリートの品質確認は受け入れ後4週間経たないと出来ない。それまでに行った工事も総てやり直しになる。かといって、生コン工場に何のお咎めなしというのも納得しがたい。金銭的な補償を行うのだろうか。その場合の罰金は施工者と発注者にどのような割合になるのだろうか。

 原則を言えば、発注者はこのような問題には関わる必要はない。引き渡しされる完成建物の性能があればよく、途中経過は問わないのだ。契約関係にあるのは、発注者と元請であり、元請と下請の契約に発注者は介入しないのは、一般的には普通の考え方だ。例えば、ファミレスのハンバーグで食中毒になった場合、お客はファミレスに損害賠償を求める。原因が食材を納入した肉屋にあったとしても、それは、ファミレスと肉屋で話を付けてもらえばよい。また、肉が汚染されていたとしてもお客が食中毒にならなければ、お客が損害賠償を求めることは無い。ファミレスと肉屋の間では何らかの賠償を求める契約にすることはありうるが、それにお客は関わらない。

 ところがである、建設業では、元請けと下請の関係に発注者が介入することが多い。建設業法では、元下関係の規定が多くある。そして公共の発注では、それについて発注者も確認する。これは、下請けいじめという建設業の悪弊があるのに加え、不良下請け業者も多いという事情があるからだろう。生コンについては、過去にミキサー車の加水など技術的問題も起こしているため、介入して確認しないと発注者も安心できない面がある。

 もちろん、契約関係にない下請けに直接、要求したりすることは出来ない。元請に対して下請けを監理せよという間接的要求になる。そして、元請が下請けの仕事を確認した結果を発注者は再確認する。おそらく、このような事情で、発注者の調合管理強度の確認試験があるのだろう。つまるところ信用の問題だ。信用がないと、手間や費用が掛かるのである。それは、経済の原則だ。

調合強度の確認 - 盲腸規定

 公共建築工事標準仕様書のコンクリート工事には、次の規定がある。

6.3.2(ウ)(d) 調合強度の確認は、材齢28日の圧縮強度による。

 この「確認」を具体的にどのように行うのかは不明である。通常、確認と言えば、試験を行う。ところが、コンクリートの強度を確認する試験には、構造体コンクリート強度や調合管理強度の規定はあるが、調合強度の試験の規定はない。と言うよりも、コンクリートの試験で調合強度より下回っても別にかまわないのである。

 一般の読者のために、調合強度とは何かを説明すると次のようになる。コンクリート工事を行う施工者がレディミクストコンクリート工場(生コン工場)に注文する時の要求性能の一つが「調合管理強度」*1である。しかし、調合管理強度を目標に調合を行うと、平均値が調合管理強度になる。つまり、50%が不合格になってしまう。そのため、不合格率を小さくするよう上乗せした強度で調合する。それが調合強度である。これで試験を行えば、50%が調合強度以下になるが、調合管理強度はほぼ上回る。

 つまり、調合強度とは、注文者の要求性能を達成できるように、生コン工場の都合で設定するものだ。極めて、バラツキの少ない製造管理が可能なら上乗せ強度は小さくて済むし、そうでなければ大きくしておいた方が安全である。本来、注文者が指定する必要もなければ、確認する必要もないものである。

 実際に確認しようすると、調合強度の値は、生コン工場に尋ねなければ分からないのである。公共建築工事標準仕様書の調合強度の値の規定は、次の通りで全く具体性が無い。

6.3.2(ア)(c) 調合強度は、調合管理強度に、強度のばらつきを表す標準偏差に許容不良率に応じた正規偏差を乗じた値を加えたものとする。

 以上のことから考えれば、「確認」とは生コン工場に調合強度をいくらにしたか尋ねることと考えるしかない。では尋ねると、どんな嬉しいことがあるかというと、特に無い。個人的見解を言えば、調合強度に関する規定は仕様書に定める必要はない。おそらく、レディミクストコンクリートが登場する以前の現場練コンクリートの規定がそのまま残ってしまった盲腸のような規定ではないだろうか。現場練の場合、施工者は、自ら調合して作るので、発注者の監督もプロセス管理として調合強度の設定値の確認をしていたのだろう。

 ちなみに、日本建築学会のコンクリート工事の標準仕様書JASS 5には、調合強度の確認の規定はない。ところが、不思議なことに、調合強度の設定の仕方は詳しく書いてある。

5.2 b. 調合強度は、標準養生した供試体の材齢m日における圧縮強度で表すものとし、(5.2)式及び(5.3)式を満足するように定める。調合強度を定める材齢m日は、原則として28日とする。

 F≧Fm+1.73σ(N/mm²)
F≧0.85Fm+3σ(N/mm²)
ここに、F:コンクリートの調合強度(N/mm²)
    Fm:コンクリートの調合管理強度(N/mm²)
    σ:使用するコンクリートの圧縮強度の標準偏差(N/mm²)

c.(略)

d.使用するコンクリートの圧縮強度の標準偏差は、レディーミクストコンクリート工場の実績を基に定める。実績がない場合は、2.5N/mm²または0.1Fmの大きいほうの値とする。

 

 確認しない調合強度について事細かに定義しているのは何故だろうか。実は、日本建築学会の標準仕様書全般にそういう傾向がある。学会の仕様書制定のメンバーには、材料メーカーの委員も参加していて、コンクリート工事では生コン工場関係者が関わっている。そのため、作る側の視点が強く出ている。調合強度をいくらに設定するかは、生コン工場としては自分たちの仕事なので、しっかり決めておきたいのだろう。

 一方、公共建築工事標準仕様書の方は、国交省が工事発注や監督する時に使う為に作っている。いわば、買う立場の視点で作られている。本来、仕様書とは、生産者に対する要求事項や、発注者の監督が確認する事項を記載した注文書である。生産者が生産する際には、仕様書以外に自分たちが作った膨大な基準類が必要になる。仕様書や設計図だけで作ることは出来ない。

 建築学会の標準仕様書は、作る立場の膨大な情報が掲載されており勉強の参考書にはなる。ただ、大部になってしまっているため、請負工事の契約書類としては使いづらい。そのため、実際に使われるのは公共建築工事標準仕様書が多い。余計な情報がなく簡潔に要点だけ記載されている。ただし、その中にも、盲腸のような規定が残っているわけだ。多分、他にもあるだろう。

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*1:正確には、注文は「呼び強度」で行う。調合管理強度は設計者が必要とする任意の値に設定できるが、レミコン工場は、JIS規格にある3N/mm²刻みのコンクリートしか製造していない。そのため、調合管理強度より大きい呼び強度で注文する。なお、呼び強度は製品の記号であり単位は無い。単位を付けた量にする場合は「呼び強度の強度値」とややこしい名称になる。